複素解析② 複素積分:コーシーの積分定理で積分経路を変更する
コーシーの積分定理の証明と応用
複素積分(複素線積分)の計算方法
複素平面を考えます。この平面上の閉曲線$C$について、$z$がパラメータ$\theta$で表されているとき、\begin{align*}\int_{C}f(z)dz=\int_{\theta_{1}}^{\theta_{2}} f(z(\theta))\dfrac{dz}{d\theta}d\theta\end{align*}
と計算できます。ここで、インテグラルに〇をつけると、閉曲線に沿って一周分線積分するというしるしになります。
例えば、
\begin{align*}f(z)=\dfrac{1}{z}\end{align*}
を経路$|z|=1$に沿って積分することを考えます。$|z|=1$というのは
\begin{align*}z=e^{i\theta}\ (0\leq \theta \lt 2\pi)\end{align*}
と表せるので、
\begin{align*}\dfrac{dz}{d\theta}=ie^{i\theta}\end{align*}
となり、複素積分(複素線積分)は、
\begin{align*}\displaystyle \oint_{C}\dfrac{1}{z}dz=\int_{0}^{2\pi}\dfrac{1}{e^{i\theta}}ie^{i\theta}d\theta=i\int_{0}^{2\pi}d\theta =2\pi i\end{align*}
となります。グリーンの定理による証明
曲線$C$とその内部で正則な複素関数$f(z)$を考えます。このとき、\begin{align*}\displaystyle \oint_{C}f(z)dz=0\end{align*}
が成り立ちます。これを証明してみます複素関数$f(z)=u(x,y)+iv(x,y)\ $($u,v$は実数値関数)$が曲線$C$とその内部で正則だとします。$dz=dx+idy$と表せるので、
\begin{align*}\displaystyle \oint_{C}f(z)dz=\oint_{C}\{u(x,y)+iv(x,y)\}(dx+idy)\end{align*}
ここで、被積分関数を実部虚部に分けてみましょう。
\begin{align*}\displaystyle \oint_{C}u(x,y)dx-v(x,y)dy+i\oint_{C}v(x,y)dx+u(x,y)dy\end{align*}
ここで、ベクトル解析の公式、グリーンの定理を用います。
滑らかな閉曲線$C$とその囲む領域$D$について、
\begin{align*}\displaystyle \oint_{C}f(x,y)dx+g(x,y)dy=\iint_{D}\left\{\dfrac{\partial g(x,y)}{\partial x}-\dfrac{\partial f(x,y)}{\partial y}\right\}dxdy\end{align*}
という関係が成り立ちます。この公式によって、
\begin{align*}
&\displaystyle \oint_{C}u(x,y)dx-v(x,y)dy+i\oint_{C}v(x,y)dx+u(x,y)dy\\ =&\displaystyle -\iint_{D}\left\{\dfrac{\partial v(x,y)}{\partial x}+\dfrac{\partial u(x,y)}{\partial y}\right\}dxdy\displaystyle +i\left[\iint_{D}\left\{\dfrac{\partial u(x,y)}{\partial x}-\dfrac{\partial v(x,y)}{\partial y}\right\}dxdy\right]
\end{align*}
ここで、仮定が効いてきます。関数$f(z)$として、曲線$C$とその内部で正則な関数を考えていたのでした。
そして、関数$f(z)=u(x,y)+iv(x,y)$が正則ならば、コーシー・リーマンの方程式
\begin{align*}\left\{\begin{array}{p}\dfrac{\partial u(x,y)}{\partial x}=\dfrac{\partial v(x,y)}{\partial y}\\\dfrac{\partial v(x,y)}{\partial x}=-\dfrac{\partial u(x,y)}{\partial y}\end{array}\right.\end{align*}
が成り立ちます。よって、
\begin{align*}\displaystyle -\iint_{D}\left\{\dfrac{\partial v(x,y)}{\partial x}+\dfrac{\partial u(x,y)}{\partial y}\right\}dxdy+\displaystyle i\iint_{D}\left\{\dfrac{\partial u(x,y)}{\partial x}-\dfrac{\partial v(x,y)}{\partial y}\right\}dxdy=0\end{align*}
すなわち、$\displaystyle\int_{C}f(z)dz=0$が成り立ちます。
これだけだと意味が分からないかもしれませんがこのありがたみがわかるのはここからです。
積分経路を変更するしくみ
以下の図を見てください。 例えば、$C$に沿って積分したいときに、大きな円を$C'$、赤、青の部分をそれぞれ$C_{1},C_{2}$とします。 ちなみに図を見やすくするために$C_{1},C_{2}$を重ねていませんが、実際には重なっています。 ここで、黄の領域で関数$f(z)$が正則ならば、コーシーの積分定理より、周回積分が0になるので、\begin{align*}\displaystyle\int_{C+C_{1}+C_{2}+C'}f(z)dz=0\end{align*}
となります。ただし、$C_{1},C_{2}$は互いに同じルートを逆向きにたどっているだけなので打ち消しあいます。
よって、
\begin{align*}\displaystyle \int_{C+C'}f(z)dz=\int_{C}f(z)dz+\int_{C'}f(z)dz=0\end{align*}
となります。すなわち、
\begin{align*}\displaystyle\int_{C}f(z)dz=-\int_{C'}f(z)dz\end{align*}
となります。ただ、ここで、一つ注意してほしいのが積分の向きです。
$C'$は時計回りを正に取っていたので、$C'$を反時計回りで回るときを$C''$として、
\begin{align*}
\displaystyle\int_{C}f(z)dz&=-\int_{C'}f(z)dz\\ \displaystyle &=-\left(-\int_{C''}f(z)dz\right)\\&=\int_{C''}f(z)dz
\end{align*}
つまり、同じ向きに積分すればよいことがわかります。
つまり、コーシーの積分定理を使えばぐにゃぐにゃな曲線に沿った複素積分も計算しにくいルートの線積分も簡単にルートが変更できるということです!