固体物理⑥ 格子振動とフォノン
格子振動の考え方・調和振動との関係
n番目の原子について運動方程式をたてる
$l$番目の原子の平衡位置(完全に力が釣り合っている位置)からの変位を$u_l$と表します.このとき,真ん中($n$番目の原子)の運動方程式は,原子の質量を$M$として,\begin{align*}
M\dfrac{d^2u_n}{dt^2}&=K(u_{n+1}-u_n)-K(u_n-u_{n-1})\\
\therefore M\dfrac{d^2u_n}{dt^2}&=-K(2u_n-u_{n+1}-u_{n-1})
\end{align*}
格子振動の運動方程式の解き方
本当であれば,古典力学と同じように積分を繰り返して解を得ることができればよいのですが,それはかなり難しいです.そこで,勝手に解を代入してみることにします.解をオイラーの公式を用いて表してみる
なんとなく運動方程式は単振動と同じような形をしていますね.なので,オイラーの公式を使えば解決できそうな気がします.波数$k$,角振動数$\omega$として,それぞれの平衡位置での座標が$(n-1)a,na,(n+1)a$であることを考えると,\begin{align*}
u_{n-1}&=Ae^{i\{k(n-1)a-\omega t\}}\\
u_n&=Ae^{i(ka-\omega t)}\\
u_{n+1}&=Ae^{i\{k(n+1)a-\omega t\}}
\end{align*}
といった形で書けそうですね.ではこれらを運動方程式に代入してやりましょう.
\begin{align*}
-M\omega^2Ae^{i(ka-\omega t)}&=-AK(2-e^{ika}-e^{-ika})e^{i(ka-\omega t)}
\end{align*}
ここで,オイラーの公式について
\begin{align*}
e^{ix}+e^{-ix}=2\cos{x}
\end{align*}
となることを考えると,
\begin{align*}
-M\omega^2Ae^{i(ka-\omega t)}=-2K(1-\cos{ka})Ae^{i(ka-\omega t)}
\end{align*}
辺々$Ae^{i(ka-\omega t)}$でわってあげれば,
\begin{align*}
\omega^2=\dfrac{2K}{M}(1-\cos{ka})
\end{align*}
となります.が,少し汚いのでもう少し変形してあげましょう.三角関数の公式
\begin{align*}
\sin^2{\dfrac{ka}{2}}&=\dfrac{1-\cos{ka}}{2}
\end{align*}
を用いれば,
\begin{align*}
\omega^2=\dfrac{4K}{M}\sin^2{\dfrac{ka}{2}}
\end{align*}
最後に$\omega\geq 0$を考慮すれば,
\begin{align*}
\omega=2\sqrt{\dfrac{K}{M}}\left|\sin{\dfrac{ka}{2}}\right|
\end{align*}
原子が二種類の場合に拡張する
結晶って別に多種類の原子が混ざっていても良いわけですからその場合について考えます. $n$番目の原子A,$n$番目の原子Bをひとつの胞(または格子)だと考えれば,格子定数は$a+b$になります.$l$番目の原子$A$の平衡位置からのずれを$u^A_l$と表すことにすると,原子A,Bの質量をそれぞれ$M_A,M_B$として,\begin{align}
M_A \dfrac{d^2u^A_n}{dt^2}&=K(u^B_n-u^A_n)-K(u^A_{n}-u^B_{n-1})\nonumber\\
&=-K(2u_n^A-u_{n-1}^B-u_n^B)\label{eq:EOM1}\\
M_B\dfrac{d^2u^B_n}{dt^2}&=K(u^A_{n+1}-u^B_n)-K(u^B_n-u^A_n)\nonumber\\
&=-K(2u_n^B-u_n^A-u_{n+1}^A)\label{eq:EOM2}
\end{align}
これもやはり解くのが難しいので,以下のように解を仮定しましょう.
\begin{align*}
u^A_n&=Ae^{i\{kn(a+b)-\omega t\}}\\
u^B_n&=Be^{i[k\{n(a+b)+a\}-\omega t]}
\end{align*}
これを\eqref{eq:EOM1},\eqref{eq:EOM2}に代入すると,
\begin{align*}
-M_A\omega^2Ae^{i\{kn(a+b)-\omega t\}}&=-\left\{2A-B(e^{-ikb}+e^{ikb})\right\}Ke^{i\{kn(a+b)-\omega t\}}\\
\therefore (M_A\omega^2-2K)A+BK\cos{kb}&=0\\
-M_B\omega^2Be^{i[k\{n(a+b)+a\}-\omega t\}}&=-\left\{2B-A(e^{ika}+e^{-ika})\right\}Ke^{i\{k\{n(a+b)+a\}-\omega t\}}\\
\therefore AK\cos{ka}+(M_B\omega^2-2K)B&=0
\end{align*}
さて,以上の式を行列形式で表すと,
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
M_A\omega^2-2K & K\cos{kb}\\
K\cos{ka} & M_B\omega^2-2K
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
A\\ B
\end{pmatrix}
=\boldsymbol{0}
\end{align*}
となります.ただし,$A,B$が0になると振動が伝播しないということになります.これは現実に合わないので,$A,B\ne 0$となるようにしたいのですが,それはつまり左側の$21\times 2$の行列式が0ということになります.つまり,
\begin{align*}
\begin{vmatrix}
M_A\omega^2-2K & K\cos{kb}\\
K\cos{ka} & M_B\omega^2-2K
\end{vmatrix}
=0
\end{align*}
ということです.
行列式が0になる計算の詳細な過程
\begin{align*}
(M_A\omega^2-2K)(M_B\omega^2-2K)-K^2\cos{ka}\cos{kb}&=0\\
M_AM_B\omega^4-2K(M_A+M_B)\omega^2+K^2(4-\cos{ka}\cos{kb})&=0\\
\end{align*}
この方程式を$\omega^2$の二次方程式として解くと,
\begin{align*}
\omega^2=\dfrac{K(M_A+M_B)\pm K\sqrt{(M_A+M_B)^2-4M_AM_B(1-\cos{ka}\cos{kb})}}{M_AM_B}
\end{align*}
ここで,$k\approx 0$のときには根号内の第二項が微小になるはずです.よって,$(1+x)^n\approx 1+nx$を利用して,
\begin{align*}
\omega^2
&=\dfrac{K(M_A+M_B)}{M_AM_B}\pm \dfrac{K(M_A+M_B)}{M_AM_B}\sqrt{1-\dfrac{4M_AM_B(1-\cos{ka}\cos{kb})}{(M_A+M_B)^2}}\\
&=\dfrac{K(M_A+M_B)}{M_AM_B}\left[1\pm\left\{1-\dfrac{2M_AM_B(1-\cos{ka}\cos{kb})}{(M_A+M_B)^2}\right\}\right]\\
\therefore \omega^2&=\dfrac{2K}{M_A+M_B}(1-\cos{ka}\cos{kb}),\dfrac{2K\{(M_A+M_B)^2-M_AM_B(1-\cos{ka}\cos{kb})\}}{M_AM_B(M_A+M_B)}
\end{align*}
このまま進めるのは難しいので少し妥協をしてみる
妥協して$a=b$とします.(つまり,格子間隔は一定だとします.)この時,$M_A>M_B$のときには,以下のような図が得られます. あまり細かい結果は気にしなくていいですが,振動が二種類あるということを覚えておいてください.光学モードと音響モード
振動には光学モードと音響モードがあります.先ほど求めた$\omega$の結果をもとの方程式に代入すると$A,B$の関係が導かれます.この$A,B$の符号が逆のとき,振動の向きが逆で,光学モード,$A,B$の符号が同じとき,振動の向きがそろっていて,これを音響モードといいます.格子振動を量子化する~フォノンの導入~
以上の話では原子が\(\omega\)という角振動数で振動しているモデルを考えました.このエネルギーは量子力学の範疇では調和振動なので,量子力学:調和振動の記事を参考にして,\begin{align}
E=\left(n+\dfrac{1}{2}\right)\hbar\omega
\end{align}
というエネルギーをもつことになります.この\(n\)は0以上の整数でしたが,今回このパラメータに対しては制限はありません.この\(n\)をフォノンの個数と考えることにします.