投稿

統計⑧ 中心極限定理

中心極限定理とは?その証明 中心極限定理とは? 中心極限定理 平均$\mu$,分散$\sigma^2$の分布から抽出した$n$個の標本を表す確率変数$X_1$,$X_2$,$\cdots$,$X_n$の標本平均$\bar{X}_n$を考えます。このとき、$n$を増やせば$\bar{X}_n$は平均$\mu$,分散$\sigma^2/n$の正規分布に近づきます。 いま、もともとの分布を母集団といい、母集団の平均値を母平均といいます。 中心極限定理の証明の方針 新たに導入する確率変数 母平均を$\mu$,母分散(母集団の分散)を$\sigma^2$として以下のような確率変数を考えます。 \begin{align} Z\stackrel{def}{=}\dfrac{\bar{X}_n-\mu}{\frac{\sigma}{\sqrt{n}}}=\dfrac{\sqrt{n}(\bar{X}_n-\mu)}{\sigma} \label{eq:1} \end{align} この時、$Z$は平均0、分散1の正規分布(つまり、標準正規分布)に近づくことを示します。どう示すか、というとモーメント母関数が$n\to\infty$の極限で標準正規分布のモーメント母関数に近づくことを示します。 モーメント母関数で証明する欠点(?) この定理の仮定としては、母平均や母分散が存在すること(発散する等存在しない場合は考えていないということ)だけしか考えていません。確率変数$Z$のモーメント母関数$M_Z(\theta)$は以下のように定義されました。 \begin{align*} M_Z(\theta)\stackrel{def}{=}\int_{-\infty}^\infty e^{\theta x}f(x)dx \end{align*} ただし、$f(x)$は確率密度関数です。この 確率密度関数の形によってはモーメント母関数が存在しない場合もあります。 というわけで、代わりに、いつでも存在する特性関数を使うほうが適用範囲が広がりそうですね。ただ、そのときに複素数が混じって積分の計算が難しくなるので、今回はモーメント母関数で証明を進めます。 正規分布のモーメント母関数 平均$\mu$,分散$\sigma^2$の正規分布のモーメント母

統計⑦ 正規分布

正規分布とは? 正規分布について紹介します。 正規分布の確率密度関数 正規分布の確率密度関数 正規分布の確率密度関数$f(x)$は平均値を$\mu$、分散を$\sigma^2$として、以下のようにあらわされます。 \begin{align*} f(x)=\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}e^{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}} \end{align*} 先頭についている$1/\sqrt{2\pi}\sigma$は全範囲で積分して1になるための規格化因子です。 以下で、本当に確率密度関数として適切かどうか確かめていきましょう。 確率密度関数を積分して1になるか? 確率密度関数を全範囲で積分します。 \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty f(x)dx &=\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}}dx \end{align*} さて、この右辺の計算ですが、これはガウス積分を用いて計算します。まず、$x-\mu=s$と置換すると、$dx=ds$であり、積分範囲は元の範囲と同じように、$-\infty$から$\infty$になります。 \begin{align*} =\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{s^2}{2\sigma^2}}ds \end{align*} ここで、ガウス積分の公式 \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty e^{-ax^2}dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{a}} \end{align*} をもちいると、(参考: ガウス積分 ) \begin{align*} \dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{s^2}{2\sigma^2}}ds =\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\sqrt{2\pi\sigma^2}=1 \end{al

統計② 補足② 特性関数

特性関数の定義とは? 特性関数の定義を紹介します。モーメント母関数は定義できない場合もあるのですが、特性関数は、いつでも存在します。 特性関数の定義 特性関数 特性関数$\varphi(t)$を以下のように定義します。確率密度関数を$f(x)$として、 \begin{align*} \varphi(t)\stackrel{def}{=}\int_{-\infty}^\infty e^{itx}f(x)dx \end{align*} モーメント母関数$M(\theta)$は以下のように定義されていました。 \begin{align*} M(\theta)\stackrel{def}{=}\int_{-\infty}^\infty e^{\theta x}f(x)dx \end{align*} $\theta$を$it$で置き換えただけです。さて、置き換えただけなのですが、特性関数のほうは、定義式の積分が収束することを示すことができます。密度関数が非負であること、$|e^{itx}|$$=1$を用いて、 \begin{align*} \left|\int_{-\infty}^\infty e^{itx}f(x)dx\right| &\leq \int_{-\infty}^\infty |e^{itx}f(x)|dx \\ &=\int_{-\infty}^\infty |e^{itx}||f(x)|dx \\ &=\int_{-\infty}^\infty f(x)dx \\ &=1 \end{align*} となります。(最左辺の絶対値がご利用の機器によっては見えていないかもしれませんが、式全体に絶対値を付けています。) つまり、特性関数は必ず存在するということになります。 特性関数と期待値の関係 特性関数の性質は以下のようになります。 特性関数と期待値の関係 \begin{align*} E[X^n]=\left.\dfrac{1}{i^n}\dfrac{d^n\varphi(t)}{dt^n}\right|_{t=0} \end{align*} モーメント母関数よりは複雑な結果になってしましました。モーメント母関数は原点での微分係数がそのまま

統計②補足① キュムラント母関数

キュムラント母関数とは? 前回定義したモーメント母関数をもとにしてキュムラント母関数を定義します。 ※連続型確率変数を前提として、書いていますが、離散型に対しても同様にできます。 キュムラント母関数の定義 キュムラント母関数 モーメント母関数$M(\theta)$に対して、キュムラント母関数$C(\theta)$を、 \begin{align*} C(\theta)\stackrel{def}{=}\ln{M(\theta)} \end{align*} と定義します。 つまり、モーメント母関数の対数をとったものです。ただし、モーメント母関数は、(連続型の)確率密度関数$f(x)$に対して、 \begin{align*} M(\theta)\stackrel{def}{=}\int_{-\infty}^\infty e^{\theta x}f(x)dx \end{align*} と定義されていました。(もちろん離散型の確率変数に対しても定義できますが、今回は連続型の確率変数を前提として扱っています。) キュムラント母関数の性質とその証明 キュムラント母関数の性質一覧 キュムラント母関数には以下のような性質があります。 キュムラント母関数の性質 確率変数$X$の期待値を$E[X]$,分散を$V[X]$で表すと、 \begin{align} E[X]&=\left. \dfrac{d C(\theta)}{d\theta}\right|_{\theta=0} \label{eq:1}\\ V[X]&=\left.\dfrac{d^2 C(\theta)}{d\theta^2}\right|_{\theta=0} \label{eq:2} \end{align} 期待値とキュムラント母関数の関係の証明 \eqref{eq:1}の右辺を計算します。まずは普通に導関数を計算すると、 \begin{align*} (\eqref{eq:1}\text{の右辺}) &=\left.\dfrac{d}{d\theta}\left(\ln{M(\theta)}\right)\right|_{\theta=0} \\ &a

統計⑥ チェビシェフの不等式と大数の法則

チェビシェフの不等式と大数の法則の証明 この記事では、確率変数$X$の期待値を$\mu$,(有限の)分散を$\sigma^2$として計算を進めます。 これらの定理を中心極限定理の証明に使おうと思っているので一足先に紹介します。 チェビシェフの不等式 チェビシェフの不等式の内容 チェビシェフの不等式 任意の実数$k$に対して、 \begin{align*} P(|X-\mu|\geq k\sigma)\leq \dfrac{1}{k^2} \end{align*} この式を証明します。 チェビシェフの不等式の証明 証明をするにあたって、まずは確率変数が連続型の場合を考えます。まずは分散を確率密度関数で表して、それを不等号で抑え込みながら確率に直していきます。 \begin{align*} \sigma^2 &=\int_{-\infty}^\infty (x-\mu)^2f(x)dx \\ &\geq \int_{|x-\mu|\geq k\sigma} (x-\mu)^2f(x)dx \\ &\geq \int_{|x-\mu|\geq k\sigma} (k\sigma)^2f(x)dx \\ &=(k\sigma)^2\int_{|x-\mu|\geq k\sigma}f(x)dx \\ &=(k\sigma)^2P(|X-\mu|\geq k\sigma) \end{align*} 最左辺と最右辺を$k^2\sigma^2$$(\gt 0)$で割ると、 \begin{align*} P(|X-\mu|\geq k\sigma)\leq \dfrac{1}{k} \end{align*} が得られます。離散型でも全く同様です。 大数の法則 大数の法則の内容 大数の法則 母平均$\mu$,分散$\sigma^2$の分布に従う確率変数$X_1$,$X_2$,$\cdots$,$X_n$の標本平均を$\bar{X}_n$とします。任意の$\varepsilon$$\gt 0$について、 \begin{align*} \lim_{n\to \infty}P(|\bar{X

統計⑤ ポアソン分布

ポアソン分布の導出と期待値の計算 ポアソン分布は離散的だった二項分布の延長として計算されます。 ポアソン分布 ポアソン分布とは? ポアソン分布 パラメータ$\lambda$に対して、ある期間に平均$\lambda$回起こる事象が実際に起こる回数を表す確率変数を$X$とします。$X$$=k$となる確率は、 \begin{align*} P(X=k)=\dfrac{e^{-\lambda}\lambda^k}{k!} \end{align*} となります。 ポアソン分布の導出 前提:二項分布 確率$p$で成功する試行を$n$回繰り返した時に成功する階数を表す確率変数$X$に対して、$X$$=k$となる確率は、 \begin{align*} P(X=k)={}_nC_kp^k(1-p)^{n-k} \end{align*} となります。これを前提に、以下、進めていきます。 二項分布からポアソン分布を導出する考え方 二項分布の期待値(以下、$\lambda$とおきます。)は、 \begin{align*} E[X]=np(=\lambda) \end{align*} と表されたのでした。(参考: 一様分布・ベルヌーイ分布・二項分布 ) この$\lambda$を一定に保ったまま、試行回数$n$$\to \infty$とします。このとき、$\lambda$$=np$が有限の値であるためには、$p\to 0$であることが必要になります。 二項分布からポアソン分布を導出する計算 $p$を$\lambda/n$で置き換えます。 \begin{align*} P(X=k) &=\dfrac{n!}{(n-k)!k!}\left(\dfrac{\lambda}{n}\right)^k\left(1-\dfrac{\lambda}{n}\right)^{n-k} \nonumber \\ &=\dfrac{n!}{(n-k)!k!}\left(\dfrac{\lambda}{n}\right)^k\left(1-\dfrac{\lambda}{n}\right)^{-\frac{n-k}{\lambda}\cdot (-\lambda)} \nonumber \\ &

統計④ 一様分布・ベルヌーイ分布・二項分布

一様分布・ベルヌーイ分布・二項分布とは? すべての分布の紹介で、離散型確率変数の場合には取りうる値に番号を付けて、$0$から$n$まで、連続型確率変数の場合は定義域を$[a,b]$にします。 一様分布とは? 一様分布とはどの値に関しても取る値が等しいということです。 一様分布・連続型変数の場合 密度関数の表式 確率変数密度関数が以下のようになります。 \begin{align*} f(x)=\dfrac{1}{b-a} \end{align*} これを全定義域で積分すれば、 \begin{align*} \int_a^bf(x)dx=1 \end{align*} となります。 期待値の計算 期待値は密度関数に$x$をかけて積分すればよくて、 \begin{align*} E[X] &=\int_a^b xf(x)dx \\ &=\left[\dfrac{1}{2(b-a)}x^2\right]^b_a \\ &=\dfrac{a+b}{2} \end{align*} となります。 分散の計算 分散$V[X]$を計算します。上で計算した期待値の結果を利用して、 \begin{align*} V[X] &=E[X^2]-\{E[X]\}^2 \\ &=\int_a^b x^2f(x)dx-\left(\int_a^b xf(x)dx\right)^2 \\ &=\dfrac{1}{b-a}\int_a^b x^2 dx-\left(\dfrac{a+b}{2}\right)^2 \\ &=\dfrac{1}{b-a}\dfrac{b^3-a^3}{3}-\dfrac{(a+b)^2}{4} \\ &=\dfrac{1}{b-a}\dfrac{(b-a)(a^2+ab+b^2)}{3}-\dfrac{(a+b)^2}{4} \\ &=\dfrac{a^2+ab+b^2}{3}-\dfrac{a^2+2ab+b^2}{4} \\ &=\dfrac{a^2-2ab+b^2}{12} \\ &=\dfrac{(b-a)^2}{12} \end{align*} 一様分布・離

統計③ ベイズの定理

ベイズの定理の証明とは? ここではベイズの定理の証明を行います。 ベイズの定理の内容 ベイズの定理 事象$A$が起こる確率を$P(A)$のように、事象$A$が起こったときに事象$B$が起こる条件付き確率を$P(B|A)$あらわします。このとき、 \begin{align*} P(A|B)=\dfrac{P(B|A)P(A)}{P(B)} \end{align*} という式が成り立ちます。 条件付き確率とは? 条件付き確率 事象$A$が起こったときに、事象$B$が起こる条件付き確率$P(B|A)$は、 \begin{align*} P(B|A)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(A)} \end{align*} と計算できます。 ベイズの定理の導出 先ほど紹介した事象$A$が起こったときに事象$B$が起こる条件付き確率の式を以下のように変形しておきます。 \begin{align} P(A\cap B)=P(A)P(B|A) \label{eq:1} \end{align} また、同様に、事象$B$が起こった時に事象$A$が起こる条件付き確率は、 \begin{align*} P(A|B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)} \end{align*} となります。これも先ほどと同様に分母を払えば、 \begin{align} P(A\cap B)=P(A|B)P(B) \label{eq:2} \end{align} ここで、\eqref{eq:1},\eqref{eq:2}を考えると、 \begin{align*} P(A|B)P(B)=P(B|A)P(A) \end{align*} となります。これを変形すると、 \begin{align*} P(A|B)=\dfrac{P(B|A)P(A)}{P(B)} \end{align*} となり、ベイズの定理が導かれます。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

集合論③ カントールの対角線論法

カントールの対角線論法とは? ここでは実数の集合$\mathbb{R}$が可算集合でないことを示します。背理法をもちいますが、今回紹介する方法が対角線論法と呼ばれています。 前提:可算集合や濃度の定義など 定義以外にも細かい説明は前回記事におおざっぱにのせてあるので、細かいことは前回記事をご覧ください。(参考: 集合の濃度とベルンシュタインの定理(+可算集合) ) 可算集合とは? 可算集合 自然数と濃度が等しい集合を可算集合といいます。 集合の濃度とは? 集合の濃度 \begin{align*} 「集合AとBの濃度が等しい」&\stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}AとBの間に全単射が存在する\\ 「集合Aの濃度はBの濃度以下」&\stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}AからBへの単射は存在する \end{align*} 可算集合の無限部分集合は可算集合 可算集合の中で無限部分集合を考えると、その無限部分集合も可算集合になります。 もちろん、これは証明すべきことなのですが、一旦事実として話を進めます。 対角線論法による証明 対角線論法を用いて、実数が非可算濃度をもつことを証明します。 背理法を用いる 実数の集合$\mathbb{R}$が可算集合と仮定します。この仮定の下では、$\mathbb{R}$の無限部分集合$[0,1]$も可算集合になります。 可算集合の定義から、$\mathbb{R}$と$\mathbb{N}$の間には1対1の対応(全単射)が存在することになります。 対応関係を考える つまり、写像$f$:$\mathbb{N}$$\mapsto$$[0,1]$を考えて、 \begin{align*} f(1)&=0.a_{11}a_{12}a_{13}\cdots \\ f(2)&=0.a_{21}a_{22}a_{23}\cdots \\ &\vdots \\ f(k)&=0.a_{k1}a_{k2}a_{k3}\cdots \\ &\vdots \end{align*} という対応関係

ベクトル解析⑫ ストークスの定理

ストークスの定理の証明・グリーンの定理との関係 ストークスの定理とは? ストークスの定理の示す内容 ストークスの定理 ベクトル値関数$\boldsymbol{F}(x,y,z)$について、単純閉曲線(自信と交わらない曲線)$C$と$C$が囲む領域$S$について、 \begin{align*} \iint_S (\nabla\times \boldsymbol{F})\cdot\boldsymbol{n}dS=\oint_C \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r} \end{align*} ガウスの発散定理では、発散の体積分を面積分に直しましたが、ストークスの定理では回転の面積分を線積分に直すことができます。以下では、 \begin{align*} \boldsymbol{F}= {}^t \begin{pmatrix} F_x & F_y & F_z \end{pmatrix} \end{align*} とします。 ストークスの定理の直感的理解 証明というほど厳密に書くと読むのが大変なので、直感的な説明(おおざっぱな説明?)を紹介します。 ベクト$\boldsymbol{F}$の回転は、 \begin{align*} \nabla\times\boldsymbol{F}= {}^t \begin{pmatrix} \dfrac{\partial F_z}{\partial y}-\dfrac{\partial F_y}{\partial z} & \dfrac{\partial F_x}{\partial z}-\dfrac{\partial F_z}{\partial x} & \dfrac{\partial F_y}{\partial x}-\dfrac{\partial F_x}{\partial y} \end{pmatrix} \end{align*} となります。面$S$として、\(x^\prime\)~\(x^\prime+\Delta x\),\(y^\prime\)~\(y^\prime+

ベクトル解析⑩ グリーンの定理

イメージ
グリーンの定理とは? ここでも、逐次積分の考え方を用います。(参考: 逐次積分(ヤコビアンなど) ) グリーンの定理の使い方と面積 グリーンの定理とは? グリーンの定理 単純閉曲線(自分と交わらない閉曲線)$C$で囲まれた領域$S$を考えます。$C^1$級の任意の関数$P(x,y)$と$Q(x,y)$について、 \begin{align*} \oint_{C} (Pdx+Qdy)=\iint_{S}\left(\dfrac{\partial Q}{\partial x}-\dfrac{\partial P}{\partial y}\right)dxdy \end{align*} グリーンの定理の証明 以下のような経路$C$($=C_1+C_2$)を考えます。また、$C$に囲まれた領域を$S$とします。 関数Pについての線積分 まず、関数$P$の周回積分を変形することを考えます。ちなみに、$x$と$y$は互いに独立ではないので、片方を動かすと他方もうごくことになります。$x$を動かすことを考えて、$y$を$x$の関数と考えて処理しましょう。 $C_1$では$y=y_1(x)$,$C_2$上では$y=y_2(x)$とします。 \begin{align*} \oint_C P(x,y)dx &=\int_{C_1}P(x,y_1(x))dx+\int_{C_2}P(x,y_2(x))dx \\ &=\int_{x_2}^{x_1}P(x,y_1(x))dx+\int_{x_1}^{x_2}P(x,y_2(x))dx \\ &=-\int_{x_1}^{x_2}P(x,y_1(x))dx+\int_{x_1}^{x_2}P(x,y_2(x))dx \\ &=\int_{x_1}^{x_2}\left\{P(x,y_2(x))-P(x,y_1(x))\right\}dx \\ &=-\int_{x_1}^{x_2}\left(\int_{y_2(x)}^{y_1(x)}\dfrac{\partial P}{\partial y}dy\right)dx \\ &=-\int_S \df

ベクトル解析⑨ 体積分

体積分の計算方法とは? この記事では体積分を扱いますが、 面積分(球の面積の公式の導出) で紹介したような面積素を求めるような複雑な計算はあまりなく、ただの逐次積分で処理するのが一般的です。 また、ベクトル値関数の体積分というのも聞いたことはないです。 スカラー値関数の体積分 体積分の計算方法 体積分 スカラー値関数$f(x,y,z)$について、 \begin{align*} \iiint_V f(x,y,z)dxdydz \end{align*} を体積分といいます。3次元という意味で積分記号を3つつけています。 ただ、体積分は最初に述べた通り逐次積分やヤコビアンで計算します。 体積分の計算例題~球の体積~ 半径$a$の球を$V$として、この$V$上で$f=1$という関数を体積分して体積を求めましょう。 ヤコビアンの計算 以下のように球座標に変換します。 \begin{align*} x&=r \sin{\theta}\cos{\phi}\\ y&=r \sin{\theta}\sin{\phi}\\ z&=r \cos{\theta} \end{align*} このときのヤコビアンは、(参考: 逐次積分とヤコビアン ) \begin{align*} \begin{vmatrix} \dfrac{\partial x}{\partial r}&\dfrac{\partial x}{\partial \theta}&\dfrac{\partial x}{\partial \phi}\\ \dfrac{\partial y}{\partial r}&\dfrac{\partial y}{\partial \theta}&\dfrac{\partial y}{\partial \phi}\\ \dfrac{\partial z}{\partial r}&\dfrac{\partial z}{\partial \theta}&\dfrac{\partial z}{\partial \phi}\\ \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} \sin{\theta}\cos{\phi}

ベクトル解析⑦ 線積分と曲線の長さを求める公式

線積分の計算方法とは? スカラー値関数、ベクトル値関数にわけて、線積分の計算方法を説明します。積分結果がスカラーで帰ってくるように定義すると考えれば計算方法を受け入れやすいかと思います。 以下、 \begin{align*} \boldsymbol{r}= {}^t \begin{pmatrix} x & y & z \end{pmatrix} \end{align*} としています。 線積分とは? 線積分とは普通の積分を一般の積分経路に拡張したと考えればよいでしょう。たとえば、一般の積分 \begin{align*} \int_0^1 f(x)dx \end{align*} というと積分経路が$x$軸上ということになります。この積分経路がたとえば、単位円上だったらどうなるでしょうか?という感じの話です。 スカラー値関数の線積分 スカラー値関数の線積分の計算方法 スカラー値関数の線積分 位置座標$\boldsymbol{r}$を$t$$(a\leq t \leq b)$でパラメータ付けして、 \begin{align} \int_a^b f(t)\left\|\dfrac{d\boldsymbol{r}}{dt}\right\|dt \label{eq:1} \end{align} 線積分の計算例題 たとえば、$C$:$y=x^2$$(0\leq 1)$に沿って、関数$f(x,y,z)=x^2(1+y)$を積分しましょう。 まずは積分経路をパラメータ$t$を使って表します。表し方には複数通りあると思いますが、たとえば、$0\leq t\leq 1$として、 \begin{align*} \boldsymbol{r}= {}^t \begin{pmatrix} x & y & z \end{pmatrix} = {}^t \begin{pmatrix} t & t^2 & 0 \end{pmatrix} \end{align*} ここで、 \begin{align*} \left\|\dfr

ベクトル解析⑥ 勾配・回転・発散

勾配・回転・発散の定義 ナブラを用いて勾配・回転・発散を定義します。 勾配(gradient)の定義と計算方法 勾配の定義とは? 勾配 スカラー値関数$f$$=f(x,y,z)$に対して、 \begin{align*} \text{grad}f\stackrel{def}{=}\nabla f= {}^t\begin{pmatrix} \dfrac{\partial f}{\partial x} & \dfrac{\partial f}{\partial y} & \dfrac{\partial f}{\partial z} \end{pmatrix} \end{align*} 勾配の意味とは? スカラー値関数の勾配はある点での変化の方向を表しているといえます。勾配が零(正確には零ベクトル)になる条件を考えると、 \begin{align*} \dfrac{\partial F_x}{\partial x}= \dfrac{\partial F_y}{\partial y}= \dfrac{\partial F_z}{\partial z}=0 \end{align*} となります。 回転(rotation)の定義と計算方法 回転の定義とは? 回転 ベクトル値関数$\boldsymbol{F}$に対して、以下のように定義されます。 \begin{align*} \text{rot}\boldsymbol{F}=\nabla\times\boldsymbol{F}= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial F_z}{\partial y}-\dfrac{\partial F_y}{\partial z} \\ \dfrac{\partial F_x}{\partial z}-\dfrac{\partial F_z}{\partial x} \\ \dfrac{\partial F_y}{\partial x}-\dfrac{\partial F_x}{\partial y} \end{pmatrix} \end{align*} 回転の意味

ベクトル解析⑤ ナブラ・ラプラス演算子とは?

ナブラ・ラプラス演算子とは? 3次元の解析を扱うときに、しょっちゅう使うナブラについて使い方を紹介します。 ナブラとは? まずはナブラを定義します。 ナブラ 以下で定義される$\nabla$をナブラといいます。 \begin{align*} \nabla\stackrel{def}{=}{}^t\begin{pmatrix}\dfrac{\partial}{\partial x} & \dfrac{\partial}{\partial y} & \dfrac{\partial}{\partial z} \end{pmatrix} \end{align*} ただし、${}^t$は転置を表します。 ※いま、転置を使って表しているのは、縦ベクトルにするとスペースを使ってしまうからで本当は縦ベクトルです。書籍等でもよく用いられているのでここでも使ってみました。 ナブラの具体的な計算例題 ナブラは先ほど紹介したようにベクトルとして扱います。たとえば、スカラー値関数$f$に対して、 \begin{align*} \nabla f ={}^t \begin{pmatrix} \dfrac{\partial f}{\partial x} & \dfrac{\partial f}{\partial y} & \dfrac{\partial f}{\partial z} \end{pmatrix} \end{align*} のようにあらわされます。また、ベクトル値関数$\boldsymbol{v}$に対しては、内積のような形で計算され、 \begin{align*} \nabla\cdot \boldsymbol{v}=\dfrac{\partial v_x}{\partial x}+\dfrac{\partial v_y}{\partial y}+\dfrac{\partial v_z}{\partial z} \end{align*} というようにあらわされます。 ナブラの二乗?ラプラス演算子 ラプラス演算子(ラプラシアン)は以下の様に定義されます。 ラプラス演算子 以下で定義される$\nabla$をラプ

ベクトル解析④ スカラー三重積

スカラー三重積とは? スカラー三重積は幾何学的な解釈ができます。以下、特に指定しなければ \begin{align*} \boldsymbol{a}&=\begin{pmatrix}a_x \\ a_y \\ a_z\end{pmatrix}\\ \boldsymbol{b}&=\begin{pmatrix} b_x \\ b_y \\ b_z \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{c}&=\begin{pmatrix} c_x \\ c_y \\ c_z \end{pmatrix} \end{align*} として説明を進めています。 スカラー三重積とは? スカラー三重積 \begin{align} \boldsymbol{a}\cdot(\boldsymbol{b}\times\boldsymbol{c}) \label{eq:1} \end{align} をスカラー三重積といいます。 スカラー三重積の幾何学的意味 スカラー三重積(の絶対値)は3つのベクトル$\boldsymbol{a}$, $\boldsymbol{b}$, $\boldsymbol{c}$がつくる平行六面体の体積になります。 たとえば、簡単な例として、 \begin{align*} \boldsymbol{a}&=\begin{pmatrix}3 \\ 0\\ 0\end{pmatrix}\\ \boldsymbol{b}&=\begin{pmatrix} 0 \\ 2 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{c}&=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 5 \end{pmatrix} \end{align*} として計算してみます。これらのベクトルがつくる平行六面体は、横3、縦2、高さ5の直方体です。 \begin{align*} |\boldsymbol{a}\cdot(\boldsymbol{b}\times\boldsymbol{c})| &= \left| \begin{pmatrix} 3 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \cdot

ベクトル解析③ ベクトル三重積

ベクトル三重積の公式の証明 特殊な性質があるので、ベクトル三重積というものを紹介します。 以下のベクトルを用いて証明を進めます。 \begin{align*} \boldsymbol{a}&=\begin{pmatrix}a_x \\ a_y \\ a_z\end{pmatrix}\\ \boldsymbol{b}&=\begin{pmatrix} b_x \\ b_y \\ b_z \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{c}&=\begin{pmatrix} c_x \\ c_y \\ c_z \end{pmatrix} \end{align*} ベクトル三重積とは? ベクトル三重積の定義 ベクトル三重積 以下の式をベクトル三重積といいます。 \begin{align} \boldsymbol{a}\times(\boldsymbol{b}\times\boldsymbol{c}) \label{eq:1} \end{align} ベクトル三重積の成分表示 この後の証明で使うので、具体的な成分を表示しておきます。後で紹介する証明は基本的には成分ごとにばらすしか方法がありません。 \begin{align} \boldsymbol{a}\times(\boldsymbol{b}\times\boldsymbol{c}) &= \boldsymbol{a}\times \begin{pmatrix} b_yc_z-b_zc_y \\ b_zc_x-b_xc_z \\ b_xc_y-b_yc_x \end{pmatrix} \nonumber \\ &= \begin{pmatrix} a_y(b_xc_y-b_yc_x)-a_z(b_zc_x-b_xc_z) \\ a_z(b_yc_z-b_zc_y)-a_x(b_xc_y-b_yc_x) \\ a_x(b_zc_x-b_xc_z)-a_y(b_yc_z-b_zc_y) \end{pmatrix} \label{eq:2} \end{align} ベクトル三重積の公式 ベクトル三重積について成り立っている公式をまとめて紹

ベクトル解析② 外積とは?外積の意味と性質

外積の公式と面積との関係 以下の二つのベクトルを用いて話を進めていきます。 \begin{align*} \boldsymbol{a}&=\begin{pmatrix}a_x \\ a_y \\ a_z\end{pmatrix}\\ \boldsymbol{b}&=\begin{pmatrix} b_x \\ b_y \\ b_z \end{pmatrix} \end{align*} 外積の定義と意味 外積の定義とは? 外積は以下のように定義されます。 外積 \begin{align} \boldsymbol{a}\times\boldsymbol{b} = \begin{pmatrix} a_yb_z-a_zb_y\\ a_zb_x-a_xb_z\\ a_xb_y-a_yb_x \end{pmatrix} \end{align} 結構複雑な計算ですね。というわけで以下のように行列式での計算方法もいろんなところで見かけます。あくまで便宜上こう計算するといいよねっていう話ですが。行列式の計算方法は次の記事をご覧ください。(参考: 行列式の定義・性質とサラスの公式 ) \begin{align*} \boldsymbol{a}\times \boldsymbol{b}=\begin{vmatrix} \boldsymbol{e_x} & \boldsymbol{e_y} & \boldsymbol{e_z} \\ a_x & a_y & a_z \\ b_x & b_y & b_z\end{vmatrix} \end{align*} ちなみに計算結果はベクトルになります。というわけで,内積がスカラー積とも呼ばれるようにこちらは ベクトル積 ともいいます。また,内積がドット積と呼ばれるのに倣って クロス積 と呼ばれたりします。 外積の意味 内積が$\cos{\theta}$と関連していたように,外積には以下の様な関係があります。 外積の幾何学的意味 \begin{align} \|\boldsymbol{a}\times \boldsym

線形代数⑱ 2次形式

2次形式とは?その利点は? 2次形式で表すと直交行列で対角化ができ、座標変換がしやすくなります。 (参考: 対角化 、 直交行列による上三角化 ) 2次形式とは? 2次形式 $n$変数の二次式を行列で表したものを二次形式といいます。 \begin{align*} \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n a_{ij}x_ix_j \begin{pmatrix} x_1 & x_2 &\cdots & x_n \end{pmatrix} A \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \cdots \\ x_n \end{pmatrix} \end{align*} ただし、行列$A$$=[a_{ij}]$は$a_{ij}$$=a_{ji}$を満たすように定めます。以下、 \begin{align*} \boldsymbol{x}_n= \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \end{align*} とします。 二次形式で表す例題 \begin{align*} P(x)=x_1^2+2x_2^2-x_3^2+4x_1x_2-6x_2x_3+2x_3x_1 \end{align*} これを二次形式で表しましょう。$x^2_i$の項は対角成分になるので、そのまま用いればよいです。$x_1x_2$の項は係数を半分ずつ$(1,2)$と$(2,1)$の成分に分けてあげます。$x_2x_3$の項や$x_3x_1$の項も同様で、 \begin{align*} P(x)={}^t \boldsymbol{x}_3A\boldsymbol{x}_3,\ A= \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1\\ 2 & 2 & -3 \\ 1 & -3 & -1

線形代数⑰ ジョルダン標準形と一般化固有ベクトルの定義

ジョルダン標準形と一般化固有ベクトル 以前対角化を紹介しましたが、対角化が一番の理想形です。計算が簡単になるので、できたら対角化できることが望ましいわけです。しかし、固有ベクトルが行列の次数分得られなければ、対角化はできません。 ジョルダン細胞とは? ジョルダン細胞 \begin{align*} J_n(\lambda)= \begin{pmatrix} \lambda & 1 & & & \\ & \lambda & 1 & & \\ & &\ddots & \ddots & \\ & & &\lambda & 1 \\ & & & & \lambda \end{pmatrix} \end{align*} というように対角成分に固有値$\lambda$をもつ行列をジョルダン細胞と呼びます。 ジョルダン標準形とは? ジョルダン標準形 ブロック行列として対角ブロックにジョルダン細胞のみが存在する場合をジョルダン標準形といいます。 \begin{align*} J= \begin{pmatrix} J_{n_1}(\lambda_1) & & \\ & J_{n_2}(\lambda_2) & \\ & &\ddots & \\ \end{pmatrix} \end{align*} というように対角成分に固有値$\lambda$をもつ行列をジョルダン細胞と呼びます。 ジョルダン標準形の例としては以下のようなものがあげられます。ただし、固有値が2と3の場合です。 \begin{align*} J= \begin{pmatrix} 2 & 1 & 0 \\ 0 & 2 &am

線形代数⑯ 直交行列による上三角化

直交行列による上三角化を行う 上三角行列とは対角成分と行列の右上にしか0以外の成分を持たない行列のことです。固有ベクトルをグラム・シュミットの方法で正規直交化したのちに、対角化と同じような作業を行います。 直交行列とは? すべての成分が実数の$n$次正方行列$R$に対して、 \begin{align*} {}^tRR=E_n \end{align*} となる行列$R$を直交行列といいます。 このような直交行列をもちいて対角化もどきを行います。今回は証明は大変なので、例題のみです... 直交行列による上三角化 固有ベクトルを求める \begin{align*} A=\begin{pmatrix} 1 & 3 & 0\\ 2 & 2 & 0\\ 0 & 0 & 3 \end{pmatrix} \end{align*} この行列の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルを$\boldsymbol{u}_\lambda$と書きます。この結果は、 固有値・固有ベクトル・固有多項式 の記事で書いているのでそちらを参照して、 \begin{align*} \boldsymbol{u}_{-1}&= \begin{pmatrix} -3 \\ 2 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{u}_3&= \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{u}_4&= \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} \end{align*} とします。これで一次独立な3本のベクトルが得られました。これを正規直交基底に書き直します。 グラム・シュミットの方法で正規直交基底を作る $\boldsymbol{v}_1$,$\boldsymbol{v}_2$,$\boldsymbol{v}_3$の三つのベクトルを作ります。一旦ノルムを無視して計算したものを$\boldsymbol{v}_i^\prime$とおき、それを正規化します。