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統計力学⑧ 統計性とスレーター行列式

フェルミオンの統計性からスレーター行列式を導く フェルミ粒子(フェルミオン)とボーズ粒子(ボゾン、ボソン)の違いとその違いが生じる由来を説明します。 多粒子系の波動関数を考える。 粒子の座標$\xi_i$,$i=1,2,\cdots ,N$の波動関数 \begin{align*} \Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots ,\xi_N) \end{align*} を考えます。ここで、$\xi_i$というのは位置とスピンを合わせた座標です。ここで、$i\ne j$を満たす、$i,j$について置換を行う演算子$\hat{\sigma}_{ij}$を考えます。つまり、 \begin{align*} \hat{\sigma}_{ij}\Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots ,\xi_i,\cdots,\xi_j,\cdots ,\xi_N) =\sigma_{ij} \Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots \xi_j,\cdots,\xi_i,\cdots,\xi_N) \end{align*} ここで、$\sigma_{ij}$は定数です。もう一度$\hat{\sigma}_{ij}$を作用させてみましょう。 \begin{align*} &\hat{\sigma}^2_{ij}\Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots ,\xi_i,\cdots,\xi_j,\cdots ,\xi_N) \\ &=\hat{\sigma}_{ij}\sigma_{ij} \Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots \xi_j,\cdots,\xi_i,\cdots,\xi_N) \\ &=\sigma_{ij}^2\Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots ,\xi_i,\cdots,\xi_j,\cdots ,\xi_N) \end{align*} そもそもなのですが、この式は$i$と$j$を入れ替えてもどしただけなので、元の関数$\Psi(\xi_1,\xi_2,\cdots ,\xi_i,\cdots,\xi_j,\cdots ,\xi_N)$と等しくなるはずです。つまり、 \begin{align*} \sigma^2=1 \end{a

統計力学⑩ ボーズ-アインシュタイン分布関数

ボーズ・アインシュタイン分布関数とは? ボソンに対する分布関数を紹介します。今回は同じ状態を複数の粒子がとることができます。 ボーズ・アインシュタイン分布関数の表式は? ボーズ・アインシュタイン分布関数 エネルギーが$\varepsilon$、化学ポテンシャルが$\mu$の系でエネルギー$\varepsilon$の準位に入る粒子の数は \begin{align*} f(\varepsilon)=\dfrac{1}{e^{\beta(\varepsilon-\mu)}-1} \end{align*} ボーズ・アインシュタイン分布関数の導出 この場合の大分配関数を計算します。いま、系がとりうる状態に順番に番号を付けていき、$i$番目の状態を考えます。系の全エネルギーは$E_i$,粒子数は$N_i$とします。 ある準位$j$の1粒子エネルギーを$\varepsilon_j$とします。また、その準位$j$にある粒子数を$n_j$とします。そのとき、状態$i$の全エネルギーは$E_j=\sum_j n_j \varepsilon_j$(すべての準位に関して粒子数と一粒子エネルギーの積の和)と表せます。また、状態$i$の全粒子数は$N_i=\sum_j n_j$となります。大分配関数は、 \begin{align*} Z_G&=\sum_{\{n_i\}} e^{-\beta(E_i-N_i\mu)} \\ &=\sum_{\{n_i\}} e^{-\beta(\sum_j n_j\varepsilon_j-\sum_j n_j\mu)} \\ &=\sum_{\{n_i\}} e^{-\beta\sum_jn_j(\varepsilon_j-\mu)} \\ &=\sum_{\{n_i\}}\prod_{j} e^{-\beta n_j (\varepsilon_j-\mu)} \end{align*} さて、$\{n_i\}$というのは取りうるすべての$n_i$の配列についての和です。 今回難しいところは どの準位も粒子数が何個でも許される ということです。この大分配関数がうまく計算できる方法はないでしょうか? とにかく取りうるすべての状態について和を実行すればよ

統計力学④ 補足③理想気体の状態方程式の導出

古典統計力学の応用・状態方程式 古典的なカノニカル分布を使うことで理想気体の状態方程式を導くことができます。 分配関数を計算する 分配関数を求めることができればそこから熱力学的関数は計算することができます。 理想気体が成り立つ条件とは? 理想気体の条件として分子間力(要は相互作用)が無視できること、また、分子の体積が無視できることがあげられます。この条件をもとに分配関数を計算してみましょう。 \begin{align*} Z=\dfrac{1}{N!}\prod_{i=1}^N \left\{\int \dfrac{d^3p_id^3q_i}{(2\pi \hbar)^3}\right\}e^{-\beta E} \end{align*} さて、ここで、エネルギー$E$は相互作用を無視できるという条件から \begin{align*} E=\sum_{i=1}^N\dfrac{\boldsymbol{p}^2_i}{2m}=\sum_{i=1}^N\left(\dfrac{p_{ix}^2+p_{iy}^2+p_{iz}^2}{2m}\right) \end{align*} と表すことができます。 分配関数の計算に用いる公式 今回の計算では、以下の公式を用います。 \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty e^{-\alpha x^2}dx&=\sqrt{\dfrac{\pi}{\alpha}} \\ N!&=\sqrt{2\pi N}\left(\dfrac{N}{e}\right)^N \end{align*} これを用いれば、分配関数を計算することができます。互いの相互作用は無視しているのでそれぞれの変数について独立に積分を行うことができます。 分配関数の導出詳細 \begin{align*} Z&=\dfrac{1}{N!}\prod_{i=1}^N \left\{\int \dfrac{d^3p_id^3q_i}{(2\pi \hbar)^3}\right\}e^{-\beta E} \\ &=\dfrac{1}{\sqrt{2\pi N}}\left(\dfrac{e}{N}\right)^N \pro

統計力学④ 補足② 分配関数の古典近似

分配関数の古典近似とは? 分配関数は以下のように定義されました。 \begin{align*} Z=\sum_i e^{-\beta E_i} \end{align*} これは暗にエネルギーが離散化されています。一応古典的には連続量として扱いたいので今回は連続に変換するような手立てを考えます。 古典的分配関数の導出 古典的分配関数 考えている粒子$N$個が非局在化している場合、座標$q$と運動量$p$について、 \begin{align*} Z=\dfrac{1}{N!}\prod_{i=1}^N\left\{\int\dfrac{d^3p_i d^3 q_i}{(2\pi \hbar)^3}\right\}e^{-\beta E} \end{align*} となります。これを導出しましょう。 \begin{align*} Z&=\sum_i e^{-\beta E_i} \\ &=\sum_k \dfrac{\prod_{j=x,y,z} \Delta p_{ij} \Delta q_{ij}}{\prod_{j=x,y,z} \Delta p_{ij} \Delta q_{ij}} e^{-\beta E_k} \end{align*} さて、この微小量の積はおおざっぱに、ではありますが、不確定性関係などを考えれば、$\Delta p_{ij} \Delta q_{ij}\sim h$$=2\pi\hbar$程度と見積もれるでしょう。これを分母のみに適用して、 \begin{align*} Z=\dfrac{1}{(2\pi \hbar)^3}\sum_k \prod_{j=x,y,z} \Delta p_{ij} \Delta q_{ij} e^{-\beta E_k} \end{align*} さて、$k$についての和は、取りうる状態のうち$k$番目の状態について和をとっていく、ということで、$E_k$はあるときの全エネルギーです。考えうるすべての状態のそのエネルギーについて和をとります。$E_k$は、$3N$個ずつある運動量と座標の関数であり、 \begin{align*} E_k=E_k(p_{1x},p_{1y},p_{1z},p_{2x},\cdots,p_{N

統計力学④ 補足① 分配関数と熱力学的関数

分配関数から熱力学的関数を導出する 分配関数をもとに熱力学的関数を導いていきます。統計力学から熱力学を導いていきます。 熱力学的関数の定義 熱力学的関数 内部エネルギー$E$、Helmholtzの自由エネルギー$F$は以下のようにあらわされます。 \begin{align} E&=-\dfrac{\partial}{\partial \beta}\log{Z} \label{eq:1}\\ F&=-\dfrac{1}{\beta}\log{Z} \label{eq:2} \end{align} 分配関数と確率との関係 分配関数$Z$は以下のようにあらわされました。$i$番目の状態のエネルギーを$E_i$とします。 \begin{align*} Z=\sum_i e^{-\beta E_i} \end{align*} これはとりうる状態の和とみることができます。$i$番目の状態を取る確率$p_i$は、 \begin{align} p_i=\dfrac{e^{-\beta E_i}}{Z} \label{eq:3} \end{align} となります。 内部エネルギーの分配関数からの導出 さて、\eqref{eq:1}の右辺を計算してみましょう。 \begin{align*} -\dfrac{\partial}{\partial \beta}\log{Z} &=-\dfrac{1}{Z}\dfrac{\partial Z}{\partial \beta} \\ &=-\dfrac{1}{Z}\sum_i (-E_i)e^{-\beta E_i} \\ &=\sum_i E_i\dfrac{e^{-\beta E_i}}{Z} \\ &=\sum_i E_i p_i\ \ (\because \eqref{eq:3}) \\ &=\braket{E} \end{align*} さて、最後は期待値$\braket{E}$を用いましたが、今回用いている和は粒子の数だけ考えなければいけません。つまり、$N\approx 10^{23}$程度とみなせます このサンプル量ではほぼ全体のエネルギーは変化しない

統計力学② 統計力学的なエントロピー

エントロピーとは? エントロピーの統計力学的な定義はどんな式でしょうか? 統計力学でのエントロピーの定義 エントロピー $i$番目の状態を取る確率を$p_i$として、エントロピー$S$は、 \begin{align*} S=-k_B\sum_{i=1}^{W} p_i \log{p_i} \end{align*} と表せます。なぜこんな式がエントロピー?以下で導出します。 エントロピーの表式 系1,2を用意します。系1と系2は互いに独立と考えます。その合成系のエントロピー$S_{12}$は、系1のエントロピー$S_1$と系2のエントロピー$S_2$を用いて、エントロピーが示量変数であることから、 \begin{align} S_{12}=S_1+S_2 \label{eq:1} \end{align} また、系1の状態$i$を取る確率$p_{1i}$と系2の状態$j$を取る確率$p_{2j}$を用いて、合成系で系1が状態$i$、系2が状態$j$となる確率は、 \begin{align} p_{ij}=p_{1i}p_{2j} \label{eq:2} \end{align} となります。(ただし、これは各系が独立と考えています。) また、エントロピーが適当な関数$f(p)$を用いて、 \begin{align} S=\sum_k p_k f(p_k) \label{eq:3} \end{align} と表されることを仮定します。\eqref{eq:2},\eqref{eq:3}を用いて、\eqref{eq:1}は、 \begin{align*} \sum_{i,j}p_{ij}f(p_{ij})=\sum_i p_{1i}f(p_{1i})+\sum_{j} p_{2j}f(p_{2j}) \end{align*} となります。ここで、すべての項が$i,j$の両方についての和にしたいので \begin{align*} \sum_i p_{1i}=\sum_j p_{2j}=1 \end{align*} をもちいて、以下のように書き直します。 \begin{align*} \sum_{i,j}p_{ij}f(p_{ij})=\sum_{i,j}

統計力学③ ミクロカノニカル分布

ミクロカノニカル分布を計算する ミクロカノニカルアンサンブル(小正準集団)、カノニカルアンサンブル(正準集団)、グランドカノニカルアンサンブル(大正準集団)という3種類の集団を考えますが、ここではミクロカノニカルアンサンブルについて紹介します。 ミクロカノニカルアンサンブルの仮定 各アンサンブルの違いはエネルギー、粒子数の変化を許すか否かということです。ミクロカノニカルアンサンブルでは、エネルギーも粒子数も変化しないものとして考えます。 ラグランジュの未定乗数法でエントロピーの極値を求める エントロピーは増大するので,極値になる点で変化が平衡状態に至るでしょう。というわけで極大になる条件を求めます。 ラグランジュの未定乗数法とは? 詳細な説明はしませんが、たとえば,$f(x,y)=x^2+y^2-1=0$という束縛条件の下で関数$g(x,y)$の極値を求めたいときには,未定乗数$\lambda$を用いて, \begin{align*} h(x,y)=g(x,y)-\lambda f(x,y) \end{align*} という関数を新たに設定して, \begin{align*} \dfrac{\partial h}{\partial x}=\dfrac{\partial h}{\partial y}=\dfrac{\partial h}{\partial \lambda}=0 \end{align*} という条件を課せば極値がもとまります。 小正準集団での束縛条件は? まず、取りうる状態すべてに番号をラベリングします。$i$番目の状態を取る確率を$p_i$とします。今回は粒子数は一定、エネルギーも一定の状況を考えているので、動くのは$p_i$だけです。ただし、もちろん、この確率はすべての状態に対する和を取れば1になるはずです。つまり、 \begin{align*} \sum_j p_j=1 \end{align*} となるはずです。この式を=0の形に変形して用います。 エントロピーの極値をもとめる 未定乗数$\lambda$として、以下のような関数$f$を考え、 エントロピーが極値をとる$p_i$ を求めます。 \begin{align*} f&=S-\lambda\

統計力学⑫ デバイ比熱

デバイ模型を用いたデバイ比熱・アインシュタイン比熱との違いは? 今回はデバイ模型を紹介します。アインシュタイン模型ではすべての振動子が同じ振動数で振動しているという点が非現実的なのでした。そこで、振動数についても一様ではない分布があるとして考えます。 波数から状態数を考える 周期的境界条件 を考えてみます。3次元で、周期が全方向に共通で$L$だとすれば、 $$ \left\{ \begin{align*} k_x&=\dfrac{2n_x\pi}{L}\\ k_y&=\dfrac{2n_y\pi}{L}\\ k_z&=\dfrac{2n_z\pi}{L} \end{align*} \right.$$ また、波数の大きさ(ノルム)$k$は以下のようにあらわせます。 \begin{align*} k=\sqrt{k_x^2+k_y^2+k_z^2} \end{align*} デバイ近似を行う 実際は波数と角振動数には固体物理の格子振動などからもっと厳密に求めるべきですが、以下のような関係が成り立つと近似的に仮定しましょう。ただし、$v$は伝搬速度 \begin{align*} \omega\approx vk \end{align*} この近似を デバイ近似 といいます。さて、調和振動子一個のエネルギーは、$\omega$に比例します。つまり、すべての$\omega$を許したら、無限のエネルギーをもつような場合も考えなければいけないので現実的ではないです。よって、限界値$\omega_D$を持つと仮定しましょう。 状態密度を求める このとき、$k$も限界値を持つとして、$\omega_D=vk_D$を満たす$k_D$を考えます。さて、この波数$k_D$以下の取りうる波数の数について考えます。 \begin{align*} \sum_{k\leq k_D}1 \end{align*} 波数空間内では波数体積ある一つの軸方向($i=x,y,z$)に関して \begin{align*} \Delta k_i=\dfrac{2(n_i+1)\pi}{L}-\dfrac{2n_i\pi}{L}=\dfrac{2\pi}{L} \end{align*} の幅があることになりま

統計力学⑪ アインシュタイン比熱

アインシュタイン比熱とは?比熱・熱容量を求める デュロン・プティの法則を量子統計の立場から一般化します。 量子的調和振動子のエネルギー 量子力学では調和振動子の固有エネルギーは \begin{align*} E_n=\left(n+\dfrac{1}{2}\right)\hbar\omega \end{align*} と表されるのでした。調和振動子どうしの相互作用を無視すれば、次に、3次元で$N$個の調和振動子があると考えます。 \begin{align*} E &=\sum_{i=1}^N \left(n_{ix}+n_{iy}+n_{iz}+\dfrac{3}{2}\right)\hbar\omega \\ &=\sum_{i=1}^N \left(n_{ix}+n_{iy}+n_{iz}\right)\hbar\omega +\dfrac{3}{2}N\hbar\omega \end{align*} これをカノニカル分布で解析します。 大分配関数の計算 大分配関数$Z$を計算します。ただし、エネルギーとしては離散化されているので、積分ではなく和の記号を使って処理します。 \begin{align*} Z&=\sum_{\{n_{ij}\}} e^{-\beta E} \end{align*} さて、$E$の一定部分$3\beta N\hbar\omega/2$の部分は計算の邪魔なので前に出します。 \begin{align*} Z&=e^{-\frac{3}{2}N\beta\hbar\omega}\sum_{\{n_{ij}\}} e^{-\beta\hbar\omega\sum_{i=1}^N (n_{ix}+n_{iy}+n_{iz})} \\ &=e^{-\frac{3}{2}N\beta\hbar\omega}\sum_{\{n_{ij}\}} \prod_{i=1}^N e^{-\beta\hbar\omega(n_{ix}+n_{iy}+n_{iz})} \\ &=e^{-\frac{3}{2}N\beta\hbar\omega}\sum_{\{n_{ij}\}} \prod_{i=1}^N \prod_{j=x,y,z}e^{-\b

統計力学⑨ フェルミ・ディラック分布関数

フェルミディラック統計とは? 大分配関数を用いてフェルミ・ディラック分布関数を求めます。 フェルミ・ディラック分布とは フェルミ・ディラック分布 エネルギー$\varepsilon$の準位の、粒子数の期待値は \begin{align*} f(\varepsilon)=\dfrac{1}{\exp{\left(\frac{\varepsilon-\mu}{k_BT}\right)}+1} \end{align*} と表せます。フェルミ粒子では同じ準位を取れないので、この値は0から1の間だと考えられます。 大分配関数を計算する 今回はフェルミ粒子を考えます。 ある準位$j$の1粒子エネルギーを$\varepsilon_j$とします。また、その準位$j$にある粒子数を$n_j$とします。そのとき、状態$i$の全エネルギーは$E_j=\sum_j n_j \varepsilon_j$(すべての準位に関して粒子数と一粒子エネルギーの積の和)と表せます。また、状態$i$の全粒子数は$N_i=\sum_j n_j$となります。大分配関数は、 \begin{align*} Z_G&=\sum_{\{n_i\}} e^{-\beta(E_i-N_i\mu)} \\ &=\sum_{\{n_i\}} e^{-\beta(\sum_j n_j\varepsilon_j-\sum_j n_j\mu)} \\ &=\sum_{\{n_i\}} e^{-\beta\sum_jn_j(\varepsilon_j-\mu)} \\ &=\sum_{\{n_i\}}\prod_{j} e^{-\beta n_j (\varepsilon_j-\mu)} \end{align*} さて、$\{n_i\}$というのは取りうるすべての$n_i$の配列についての和です。 フェルミ粒子では パウリの排他原理 がはたらいて各準位で$n_i=0,1$です。 とにかくすべての取りうる状態について和を取ればいいので、積と和は入れ替えることができて、 \begin{align*} Z_G&=\prod_{j} \sum_{n_j=0,1} e^{-\beta n_j(\var

統計力学⑦ デュロン・プティの法則

固体の比熱を導出する 固体の定積モル比熱は$3R$であるというのが デュロン・プティの法則 の内容です。ただし、これは古典統計力学の範疇である高温のときのみ成り立ち、低温の場合はまた別の解析方法が必要になります。 相互作用を無視するために高温を仮定する 高温で考えると振動が激しくなり、相互作用のポテンシャルを無視できると考えます。この系の全エネルギー(つまりハミルトニアン)は、全方向に同じ振動数で振動していると考えれば、 \begin{align*} E=\sum_{i=1}^N \left\{\dfrac{p_{ix}^2+p_{iy}^2+p_{iz}^2}{2m}+\dfrac{1}{2}m\omega^2 (q_{ix}^2+q_{iy}^2+q_{iz}^2) \right\} \end{align*} となります。カノニカル分布を考えて、その物理量を求めます。(参考: カノニカル分布 )この分配関数$Z$は、理想気体の状態方程式の導出の時(参考: 理想気体の状態方程式の導出 )と同様に、 \begin{align*} Z&=\sum_i e^{-\beta E_i} \\ &=\prod_{i=1}^N \left(\int\dfrac{d^3p_id^3q_i}{(2\pi \hbar)^3}\right)e^{-\beta E}\\ &=\left[\dfrac{1}{(2\pi \hbar)^3}\left(\int dp\ e^{-\frac{\beta p^2}{2m}}\right)^3\left(\int dq\ e^{-\frac{\beta m\omega^2 x^2}{2}}\right)^3\right]^N \\ &=\left[\dfrac{1}{(2\pi \hbar)^3}\left(\dfrac{2\pi m}{\beta}\right)^\frac{3}{2}\left(\dfrac{2\pi}{m\omega^2 }\right)^\frac{3}{2}\right]^N \\ &=\dfrac{1}{(\hbar\omega\beta)^{3N}} \end{align*} となります。また、内部エネルギー$E$は、カノ

統計力学⑥ 2準位系(ショットキー比熱)

二準位系とは?その具体例 最も簡単な応用例として2準位系を考えます。 $N$粒子からなる系で、$\sigma=\pm{1}$に対して、エネルギーが基準値に対して$\pm{\varepsilon}$となるような系を考えます。量子力学でスピンが絡んでくる話がこの代表例です。 準位が2つだけの場合を考える 基準値を0として考えます。系の全エネルギーは、 \begin{align*} E=N\varepsilon (p_+-p_-) \end{align*} となるわけです。ここで、エントロピー$S$は、 \begin{align} S&=-k_B \left(p_+\log{p_+}+p_-\log{p_-}\right) \label{eq:1} \end{align} この確率たちを求めたいのですが、全体のエネルギーが$E$のとき、2準位系だからこそできる技ですが、 \begin{align} E&=Np_- (-\varepsilon)+Np_+ \varepsilon\nonumber \\ &=N\varepsilon \left\{-(1-p_+)+p_+\right\}\nonumber \\ &=N\varepsilon (2p_+-1)\nonumber \\ \therefore p_+&=\dfrac{1}{2}+\dfrac{E}{2N\varepsilon}\label{eq:2}\\ p_-&=1-p_+\nonumber \\ &=\dfrac{1}{2}-\dfrac{E}{2N\varepsilon} \label{eq:3} \end{align} ここで、$\eqref{eq:2},\eqref{eq:3}$式を$\eqref{eq:1}$式に代入して、エントロピーは、 \begin{align} S&=-k_B\left\{\left(\dfrac{1}{2}+\dfrac{E}{2N\varepsilon }\right)\log{\left(\dfrac{1}{2}+\dfrac{E}{2N\varepsilon}\right)}+\left(\dfrac{1}{2}-\dfrac{E

統計力学⑤ グランドカノニカル分布

グランドカノニカル分布とは?大分配関数の導出 グランドカノニカル分布もカノニカル分布とやり方は変わりません。 統計力学的分布の性質の違い グランドカノニカルではカノニカル分布で変動すると考えたエネルギーに加えて,粒子数も変動すると考えます。 \begin{array}{c|c|c} & \textbf{エネルギー} & \textbf{粒子数}\\ \hline \hline \\ \textbf{ミクロカノニカル} & \textbf{一定} & \textbf{一定}\\ \hline\\ \textbf{カノニカル} & \textbf{変動} & \textbf{一定}\\ \hline\\ \textbf{グランドカノニカル} & \textbf{変動} & \textbf{変動} \end{array} ラグランジュの未定乗数法でエントロピーの極値を求める 毎度おなじみですがエントロピーは以下のようにも表せますね。 \begin{align*} S=-k_B\sum_i p_i\log{p_i} \end{align*} さて,グランドカノニカル分布では粒子数とエネルギーは変動するので, \begin{align*} 1&=\sum_i p_i\\ N&=\sum_i N_i p_i\\ E&=\sum_i E_i p_i \end{align*} とおきます。ここで,$N_i,E_i$は$i$番目の状態での粒子数,エネルギーです。この3式を用いてラグランジュの未定乗数法によってエントロピーの極値を求めましょう。 \begin{align*} f=-k_B\sum_i p_i\log{p_i}+\tilde{\alpha}\left(\sum_i p_i-1\right)+\tilde{\beta}\left(\sum_i p_iE_i-E\right)+\tilde{\gamma}\left(\sum_i N_ip_i-N\right) \end{align*} $p_i$で辺々を微分すると, \begin{align*} \dfrac{\partial f}{\partial p_i}&am

統計力学④ カノニカル分布

カノニカル分布の導出・エネルギーの期待値は? ラグランジュの未定乗数法を用いてエントロピーが極値を取る点を計算します。 カノニカル分布の設定を整理する 一定となる粒子数,変化するエネルギー カノニカル分布で一定とするのは, 粒子数 であり,変化するのは エネルギー です。さて,この状況を式で整理しましょう。 まずは取り得る状態にラベル(番号)をつけましょう。 $i$番目の状態を取る確率を$p_i$と表します。また,$i$番目の状態のエネルギーを$E_i$とおきます。 エネルギーの平均値(期待値)$E$は, \begin{align*} 1&=\sum_i p_i\\ E&=\sum_i E_ip_i \end{align*} という条件があります。 エントロピーを確率をもちいて表す さて,今考えている状態のエントロピーは \begin{align*} S=-k\sum_i p_i\log{p_i} \end{align*} と表されます。 ラグランジュの未定乗数法のための束縛条件は? \begin{align*} \sum_jp_j-1&=0\\ \sum_j p_jE_j-E&=0 \end{align*} という束縛条件をもとにエントロピーの極値を求めましょう。関数$f$を以下のように定めます。ただし,$\tilde{\alpha},\tilde{\beta}$は未定乗数です。(ただし,後で定数を置き換えたいのでチルダをつけています) \begin{align*} f=-k_B \sum_j p_j\log{p_j}+\tilde{\alpha}\left(\sum_j p_j -1\right)+\tilde{\beta}\left(\sum_j p_j E_j-E\right) \end{align*} さて,ここで辺々の微分を取りましょう。$\dfrac{\partial f}{\partial p_i}$を計算してみます。$j=i$のときのみ項が残って、 \begin{align*} \dfrac{\partial f}{\partial p_i}&=\sum_i\left\{-k_B\left(\l

統計力学③ 補足① 古典的ミクロカノニカル分布

ミクロカノニカル分布を古典的に ミクロカノニカル分布の導出では取りうる状態にラベリングしていましたが、これは暗に離散化していることになります。今回は、それを古典的に移行するために連続量として扱います。 導出の準備:確率密度の考え方 統計力学では統計学の知識がちょこちょこと必要になります。少し復習です。 確率密度関数 を$f(x)$を考えるわけですが、観測値$X$がxとなる確率は$f(x)$を用いて計算できるのですが、これは直接$f(x)$が求める確率、というわけにはいきません。どうするかというと、たとえば、$f(x)dx$などと書きます。 たとえば、量子力学で同じことをやっています。波動関数が$\psi(x)$のとき、この粒子が$x$~$x+dx$にある確率は$|\psi(x)|^2dx$と表せます。 このように少し幅をもたせてあげないと確率モデルを考えるうえで少し都合が悪いことになります。 参考: 統計① 期待値・分散と密度関数・分布関数 位相空間を考える 系のエネルギーを$E$、粒子数を$N$とします。この系が体積$V$の箱のなかにある状況を考えます。一旦、位相空間の超体積を考えたいのですが、とりあえず運動量のことを考えます。いま、エネルギーは、粒子の質量を$m$として、 \begin{align} E&=\sum_i^N\dfrac{\boldsymbol{p_i}^2}{2m}\nonumber \\ &=\sum_{i=1}^N \left(\dfrac{p_{ix}^2}{2m}+\dfrac{p_{iy}^2}{2m}+\dfrac{p_{iz}^2}{2m}\right) \nonumber \end{align} これは合計で$3\times N=3N$個の運動量成分とエネルギーの関係を示しています。これを少し変形すると、 \begin{align} p_{1x}^2+p_{1y}^2+p_{1z}^2+\cdots +p_{Nx}^2+p_{Ny}^2+p_{Nz}^2=2mE \label{eq-sm3:1} \end{align} これは$3N$次元球になります。ここで、数学的な側面から$n$次元球の体積は、 \begin{align*} \dfrac{\

統計力学① 位相空間・リュービルの定理

位相空間とは?リュービルの定理とは? 統計力学についての考え方です。 位相空間とは? 位置と運動量で決定される空間のことです。たとえば、3次元の粒子1つを考えることにすると、位置座標は$x,y,z$,それぞれの成分に対応する運動量$p_x,p_y,p_z$が決定すれば、粒子の運動状態を決定できることになります。 このように粒子1つからなる位相空間を $\mu$空間 といいます。 とはいえ、こんな粒子が一つしかない系のみを考えることは少ないでしょう。実際には多数の粒子からなる空間を扱うことになります。たとえば、粒子が$N$個からなる系を考えると、それぞれの粒子の運動状態を定めるのに3つの位置成分、3つの運動量が必要になります。合計で$N$個の粒子があるわけですから合計で$6N$個のパラメータが必要になります。 複数の粒子からなる空間を $\Gamma$空間 といいます。 リュービルの定理(Liouville) 位相空間での超体積は保存される このリュービルの定理が位相空間を使って考える動機になるわけです。位相空間は基本的には2次元とか、3次元ではないので超体積($n$次元の体積)を用いることが必要になります。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]