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関数解析⑩ 汎関数とリースの表現定理

リースの表現定理の証明 Rieszの表現定理を紹介します。内積をもちいて、線形写像が表せます。 汎関数と双対空間 量子力学ではブラケットという計算がありました。 ベクトル空間$V$に対して、スカラーを返す作用素$T$が線形写像の時に線形汎関数 といいます。この線形汎関数の集合を$V^*$と表します。 このとき、$V^*$はベクトル空間になり、双対空間と呼びます。 リースの表現定理とは? リースの表現定理の示す内容 Rieszの表現定理 ヒルベルト空間$\mathcal{H}$で、$x$$\in\mathcal{H}$を考えます。有界線形汎関数$f$$\in\mathcal{H}^*$について、 \begin{align*} f(x)=\braket{x_0,x} \end{align*} をみたす$x_0$がただ一つ存在します。また、 \begin{align*} \|f\|_{\mathcal{H}^*}=\|x_0\|_{\mathcal{H}} \end{align*} が成り立ちます。左辺は双対空間上のノルム、右辺はHilbert空間上のノルムです。 ちなみに、このサイトの関数解析の記事では右側に線形性を課しています。左側に線形を課すと、$f(x)$$=\braket{x,x_0}$ということですね。 リースの表現定理の証明 ここで、$z$が存在すること、それが一意になることを示します。 存在することを示す 以下のような集合$M$を考えます。 \begin{align*} M=\text{Ker}\ f=\{x\in\mathcal{H}|f(x)=0\} \end{align*} また、この直交補空間$M^\perp$を考えます。$z$$\in M^\perp$とすると、$f(z)$$\ne0$となります。ここで、$f$は有界線形汎関数なので、線形性を利用して、$x$$\in\mathcal{H}$について、 \begin{align*} f\left(x-\dfrac{f(x)}{f(z)}z\right)=f(x)-\dfrac{f(x)}{f(z)}f(z)=0 \end{align*} つまり、 \begin{align*} x-\dfrac{f

関数解析⑨ 有界線形作用素

有界作用素・線形作用素とは? まず、作用素を考えます。 作用素 ノルム空間$X$,$Y$を考えます。$X$から$Y$への写像を$x\in X$をもちいて、 \begin{align*} Tx(\in Y) \end{align*} のようにあらわします。 もっとも考えやすいのが、線形代数でいうところの線形写像です。あとでノルムの話もしますが、作用素を作用させる前後では空間変わることもよくあることです。よって、作用させる前後で違うノルム空間を変えてます。 有界作用素の定義とは? 有界作用素 ノルム空間$X$,$Y$で、$X$,$Y$でのノルムをそれぞれ$\|\cdot\|_X$、$\|\cdot\|_Y$のようにあらわします。このとき、任意の$x$について、 \begin{align*} \|Tx\|_Y\leq M\|x\|_X \end{align*} となる$M$が存在するとき、$T$を有界作用素といいます。 ここで、最小の$M$を作用素ノルムといいます。つまり、作用素ノルム$\|\cdot\|_{op}$について、 \begin{align*} \|Tx\|_Y\leq \|T\|_{op}\|x\|_X \end{align*} ということです。 線形作用素の定義とは? 線形作用素 作用素$T:X\to Y$、$x,x^\prime$$\in X$と、係数体$K$に関して$\alpha$,$\beta$$\in K$を考えます。 \begin{align*} T(\alpha x+\beta x^\prime)=\alpha Tx+\beta Tx^\prime \end{align*} また、有界作用素でかつ線形作用素なものを有界線形作用素といいます。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

関数解析⑧ コーシー・シュワルツの不等式

コーシー・シュワルツの不等式の証明と意味 コーシー・シュワルツの不等式、またはシュワルツの不等式などといわれますが、その証明を紹介します。線形代数や高校数学でも紹介されていることも多いですが、より抽象的に広範囲に応用できる形で証明を書きます。 コーシー・シュワルツの不等式の内容 コーシー・シュワルツの不等式 線形空間$H$を考えます。任意の$x$,$y$$\in H$について、 \begin{align} |\braket{x,y}|^2\leq \|x\|^2 \|y\|^2 \end{align} この証明方法は割と特殊な方法ですが、簡単な方法です。 コーシー・シュワルツの不等式の証明 ノルムの正定値性から ノルムの正定値性と二次不等式に対する判別式を用います。$\alpha$$\in\mathbb{C}$として計算を進めます。いま、物理の慣習に従って、内積の線形性は右側の項に課していることに注意してください。(数学的には左側に線形性を課すことが多いです。) つまり、$\braket{x,\alpha y}$$=\alpha\braket{x,y}$だとか、$\braket{x,y+z}$$=\braket{x,y}$$+\braket{x,z}$のようになります。 \begin{align*} \|x+\alpha y\|^2 &=\braket{x+\alpha y,x+\alpha y} \\ &=\braket{x+\alpha y,x}+\alpha\braket{x+\alpha y,y} \\ &=\braket{x,x+\alpha y}^*+\alpha\braket{y,x+\alpha y}^* \\ &=(\braket{x,x}+\alpha\braket{x,y})^*+\alpha(\braket{y,x}+\alpha\braket{y,y})^* \\ &=\braket{x,x}+\alpha^*\braket{x,y}^*+\alpha\braket{y,x}^*+\alpha\alpha^*\braket{y,y}^* \\ &=\braket{x,x}+\alpha^*\braket

関数解析⑦ ヒルベルト空間

ヒルベルト空間とは? ヒルベルト空間は無限大次元のベクトル空間とか言われますがそれは定義ではなく導ける性質のひとつにすぎません。 ヒルベルト空間の定義 ヒルベルト空間 内積から誘導されるノルムに関して完備になる(バナッハ空間になる)ような空間 ヒルベルト空間の例 $\|x\|=\sqrt{(x,x)}$というように定義するのが一般的です。この内積を以下のように定義します。連続関数の集合$C$に対して、関数$f,g\in C$を考えます。 \begin{align} \braket{f,g}=\int_{-\infty}^\infty f^*(x)g(x) dx \label{eq:1} \end{align} (まあ、右辺が存在するかは怪しいですが一旦存在するものだけを考えることにしましょう。 ) この内積が内積の公理を満たすことが簡単に示せます。 内積の公理を満たすことの確認 $f,g,h\in C$について、以下のように内積の公理が示せます。係数$\alpha$を用いています。 \begin{align*} \braket{f,g+h} &=\int_{-\infty}^\infty f^*(x)[g(x)+h(x)]dx\\ &=\int_{-\infty}^\infty f^*(x)g(x)dx+\int_{-\infty}^\infty f^*(x)h(x)dx\\ &=\braket{f,g}+\braket{f,h} \\ \braket{f,\alpha g} &=\alpha \int_{-\infty}^\infty f^*(x)g(x)dx \\ &=\alpha\braket{f,g} \\ \braket{f,f} &=\int_{-\infty}^\infty |f(x)|^2dx\geq0 \ \ (\text{等号成立は}f(x)=0) \\ \braket{f,g}^* &=\left(\int_{-\infty}^\infty f^*(x)g(x)dx\right)^* \\ &=

関数解析⑥ 内積空間と内積の公理

内積の公理から内積空間を定義 内積というのはベクトルに限ったわけではなく、もっと一般に定義できるものです。 内積の公理と内積空間の定義 さて、以下では内積の公理を紹介しますが、実は公理の定め方は物理と数学で異なります。 内積の公理 線形空間$V$を考えます。$x,y\in V$,$\alpha\in K$($K$は係数体)とします。写像$\braket{\cdot,\cdot}$$:$$V\times V\mapsto \mathbb{C}$に対して、 \begin{align} \braket{x,y_1+y_2}&=\braket{x,y_1}+\braket{x,y_2} \label{eq:1}\\ \braket{x,\alpha y}&=\alpha\braket{x,y} \label{eq:2}\\ \braket{x,x}\geq 0, \braket{x,x}=0&\Leftrightarrow \ x=0 \label{eq:3}\\ \braket{x,y}^*&=\braket{y,x} \label{eq:4}\\ \end{align} を内積の公理といい、これが成り立つ$(V,\braket{\cdot,\cdot})$の組を内積空間といいます。 さて、\eqref{eq:1}と\eqref{eq:2}は内積に線形性を課すということです。内積に課したい 線形性を左に与えるか右に与えるか という違いが生まれてきます。数学的には左に線形性を課すことが多く、物理的には右に課します。 このサイトは一応物理メインなので後者を採用しました。 内積の例 複素ベクトルを考えてみましょう。$\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\boldsymbol{c}\in \mathbb{C}^n$とします。つまり、 \begin{align*} \boldsymbol{a}&={}^t \begin{pmatrix} a_1, a_2, \cdots, a_n \end{pmatrix} \\

関数解析⑤ バナッハ空間

バナッハ空間の定義とは バナッハ空間の定義 バナッハ空間 完備なノルム空間をバナッハ空間といいます。 さて、これだけです。以下では例を示します。 バナッハ空間の例 $[a,b]$で定義された連続関数の集合$C[a,b]$が適当なノルムについてバナッハ空間になります。 さて、バナッハ空間になるといっても、ノルムはどう定義されているのか?というところまで決めなければいけません。よって、 ① ノルムを定め、ノルムの公理を満たすことを確認する ② 完備性を確かめる この二つの段階が必要です。 ノルムを定める 関数のノルムとして使われるのは例えば以下のようなものです。$x\in C[a,b]$に対して、 \begin{align*} \|x\|=\max_{t}|x(t)| \end{align*} このノルムに対して3公理を満たすことを示しましょう。 ノルムの半正値性について \begin{align*} \|x\|=\max_t |x(t)|\geq 0 \end{align*} また、等号成立は明らかに$x(t)=0$という恒等的に0の関数のみになります。 斉次性について たとえば、係数体として$\mathbb{C}$を選べば、$\alpha\in \mathbb{C}$に対して、 \begin{align*} \|\alpha x\| &=\max_t |\alpha x(t)|\\ &=|\alpha|\cdot \max_t|x(t)|\\ &=|\alpha|\|x\| \end{align*} 劣加法性について $x,y\in C[a,b]$に対して、 \begin{align*} \|x+y\| &=\max_t\left|x(t)+y(t)\right| \\ &\leq\max_t\left\{|x(t)|+|y(t)|\right\} \\ &\leq \max_t |x(t)|+\max_t |y(t)| \\ &=\|x\|+\|y\| \end{align*} となり、ノルムの公理は満たすことがわかりました。 完備性を示す $C[a,b

関数解析④ 完備性

完備性とは?実数の完備性 完備性がこの先紹介するバナッハ空間を定義するのに、重要な性質になっています。 完備の定義 完備性 任意のコーシー列が(考えている集合の中に)収束する場合、完備といいます。 ちょっとややこしい言い方をしましたが、例えば前回コーシー列になることを確認した以下の点列を考えます。 \begin{align*} a_n=\dfrac{1}{n} \end{align*} この収束先は0ですね。しかし、これは$a_n$では表せない値です。もし、正の有理数という集合の中でこのコーシー列を考えているならばその時には集合の中には収束しないので、正の有理数の集合は完備ではないです。 ただし、この話を実数の中で考えましょう。実数の中で$a_n$を考えれば、0という実数の要素に収束します。というわけで完備といえるでしょう。 実数の完備性とは 実数を定義するときに実数の完備性は公理的に定められていることが多いです。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

関数解析③ コーシー列

※分数に対して絶対値記号が表示できていないようです。原因究明中です。 コーシー列とは Cauchy列というものを定義します。 コーシー列の定義 コーシー列 点列$\{a_n\}$について、 \begin{align*} \forall \varepsilon \gt 0, \exists N; m,n\geq N\Rightarrow d(a_m,a_n)\lt \varepsilon \end{align*} が成り立つとき点列$\{a_n\}$をコーシー列といいます。 日本語で言うなら...任意の正の$\varepsilon$について、$m,n\geq N$ならば$d(a_m,a_n)\lt \varepsilon$となるような$N$が存在する、ということになります。 この右辺には前々回の記事で導入した距離関数を用いていますが、これを絶対値やノルムなどの別のもので置き換えている場合もあります。 コーシー列になる例 たとえば以下のように点列を定めましょう。 \begin{align*} a_n=\dfrac{1}{n} \end{align*} $d(x,y)=|x-y|$と選んだ時、これはコーシー列になります。 \begin{align*} \forall \varepsilon \gt 0,\exists N;m,n\gt N\Rightarrow |a_m-a_n|\lt \varepsilon \end{align*} を示せばよいでしょう。$m,n\gt N \gt 0$なので、 \begin{align*} |a_m-a_n| &\leq \dfrac{1}{m}-\dfrac{1}{n} \\ &\lt \dfrac{1}{m} \\ &\leq \dfrac{1}{N} \\ &\leq \varepsilon \end{align*} よって、$N=\left\lceil \dfrac{1}{\varepsilon} \right\rceil\geq \dfrac{1}{\varepsilon}$とすれば、元の式が成り立つことがわかります。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

関数解析② ノルム空間とノルムの公理

ノルムの公理とは? ノルムとはなにか?先に線形代数でベクトルの大きさを定義するためにノルムだけ紹介されたかもしれませんが、別にベクトルにしか適用できないわけではなく、一般にノルムとはどういうものか、定められています。 ノルムとは何か? ノルムの公理 線形空間$V$について、$x,y\in V$、また、絶対値が用意できる体$K$について、$\alpha \in K$を考えます。写像$\|\cdot \|:V\mapsto \mathbb{R}$について、 \begin{align} \|x\| \geq 0, \|x\|=0 &\Leftrightarrow x=0 \\ \|\alpha x\|&=|\alpha|\|x\| \\ \|x+y\|&\leq \|x\|+\|y\| \end{align} これらをノルムの公理といい、$(V,\|\cdot \|)$をノルム空間といいます。 一応数学の教科書に沿って$K$を体といいましたが、 四則演算が定義できる集合 と思ってもらえば大丈夫で、基本的には実数体$\mathbb{R}$か、複素数体$\mathbb{C}$が選ばれます。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

関数解析① 距離空間と距離の公理

距離空間とは? 距離といえば...?絶対値だとか三平方の定理を用いた定義だとか様々だと思いますが、距離とはどんなものなのか?明確に定めてみます。 距離の公理と距離関数 以下の性質を距離の公理、またこれを満たす関数$d$を距離関数といいます。 距離関数 集合$X$に対する関数$d:X\times X\mapsto \mathbb{R}$について \begin{align} d(x,y)\geq 0,d(x,y)=0&\Leftrightarrow x=y \label{eq:1}\\ d(x,y)&=d(y,x) \label{eq:2}\\ d(x,z)+d(z,y)&\geq d(x,y) \label{eq:3} \end{align} 距離の例としての絶対値 距離関数として以下のような関数を考えて、距離の公理を満たすことを確かめましょう。 \begin{align*} d(x,y)=|x-y| \end{align*} まずは、\eqref{eq:1}について、絶対値とは何かを考えれば、 \begin{align*} d(x,y)=|x-y|\geq 0 \end{align*} であり、 \begin{align*} d(x,y)=|x-y|=0 \Leftrightarrow x=y \end{align*} とすぐにわかるでしょう。次に\eqref{eq:2}について、 \begin{align*} d(x,y)=|x-y|=|y-x|=d(y,x) \end{align*} なのでよいでしょう。\eqref{eq:3}について、 \begin{align*} |x-z|+|z-y|\geq |x-y| \end{align*} を示しましょう。絶対値の三角不等式から成り立つことはいえるでしょうが、一応しっかり計算してみました。 \begin{align*} (\text{左辺})^2-(\text{右辺})^2 &=|x-z|^2+2|x-z| |z-y|+|z-y|^2 -|x-y|^2 \\ &=(x^2-2xz+z^2)+2|x-z| |z-y|+(z^2-2zy+y^2)-