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線形代数⑱ 2次形式

2次形式とは?その利点は? 2次形式で表すと直交行列で対角化ができ、座標変換がしやすくなります。 (参考: 対角化 、 直交行列による上三角化 ) 2次形式とは? 2次形式 $n$変数の二次式を行列で表したものを二次形式といいます。 \begin{align*} \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n a_{ij}x_ix_j \begin{pmatrix} x_1 & x_2 &\cdots & x_n \end{pmatrix} A \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \cdots \\ x_n \end{pmatrix} \end{align*} ただし、行列$A$$=[a_{ij}]$は$a_{ij}$$=a_{ji}$を満たすように定めます。以下、 \begin{align*} \boldsymbol{x}_n= \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \end{align*} とします。 二次形式で表す例題 \begin{align*} P(x)=x_1^2+2x_2^2-x_3^2+4x_1x_2-6x_2x_3+2x_3x_1 \end{align*} これを二次形式で表しましょう。$x^2_i$の項は対角成分になるので、そのまま用いればよいです。$x_1x_2$の項は係数を半分ずつ$(1,2)$と$(2,1)$の成分に分けてあげます。$x_2x_3$の項や$x_3x_1$の項も同様で、 \begin{align*} P(x)={}^t \boldsymbol{x}_3A\boldsymbol{x}_3,\ A= \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1\\ 2 & 2 & -3 \\ 1 & -3 & -1

線形代数⑰ ジョルダン標準形と一般化固有ベクトルの定義

ジョルダン標準形と一般化固有ベクトル 以前対角化を紹介しましたが、対角化が一番の理想形です。計算が簡単になるので、できたら対角化できることが望ましいわけです。しかし、固有ベクトルが行列の次数分得られなければ、対角化はできません。 ジョルダン細胞とは? ジョルダン細胞 \begin{align*} J_n(\lambda)= \begin{pmatrix} \lambda & 1 & & & \\ & \lambda & 1 & & \\ & &\ddots & \ddots & \\ & & &\lambda & 1 \\ & & & & \lambda \end{pmatrix} \end{align*} というように対角成分に固有値$\lambda$をもつ行列をジョルダン細胞と呼びます。 ジョルダン標準形とは? ジョルダン標準形 ブロック行列として対角ブロックにジョルダン細胞のみが存在する場合をジョルダン標準形といいます。 \begin{align*} J= \begin{pmatrix} J_{n_1}(\lambda_1) & & \\ & J_{n_2}(\lambda_2) & \\ & &\ddots & \\ \end{pmatrix} \end{align*} というように対角成分に固有値$\lambda$をもつ行列をジョルダン細胞と呼びます。 ジョルダン標準形の例としては以下のようなものがあげられます。ただし、固有値が2と3の場合です。 \begin{align*} J= \begin{pmatrix} 2 & 1 & 0 \\ 0 & 2 &am

線形代数⑯ 直交行列による上三角化

直交行列による上三角化を行う 上三角行列とは対角成分と行列の右上にしか0以外の成分を持たない行列のことです。固有ベクトルをグラム・シュミットの方法で正規直交化したのちに、対角化と同じような作業を行います。 直交行列とは? すべての成分が実数の$n$次正方行列$R$に対して、 \begin{align*} {}^tRR=E_n \end{align*} となる行列$R$を直交行列といいます。 このような直交行列をもちいて対角化もどきを行います。今回は証明は大変なので、例題のみです... 直交行列による上三角化 固有ベクトルを求める \begin{align*} A=\begin{pmatrix} 1 & 3 & 0\\ 2 & 2 & 0\\ 0 & 0 & 3 \end{pmatrix} \end{align*} この行列の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルを$\boldsymbol{u}_\lambda$と書きます。この結果は、 固有値・固有ベクトル・固有多項式 の記事で書いているのでそちらを参照して、 \begin{align*} \boldsymbol{u}_{-1}&= \begin{pmatrix} -3 \\ 2 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{u}_3&= \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{u}_4&= \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} \end{align*} とします。これで一次独立な3本のベクトルが得られました。これを正規直交基底に書き直します。 グラム・シュミットの方法で正規直交基底を作る $\boldsymbol{v}_1$,$\boldsymbol{v}_2$,$\boldsymbol{v}_3$の三つのベクトルを作ります。一旦ノルムを無視して計算したものを$\boldsymbol{v}_i^\prime$とおき、それを正規化します。

線形代数⑮ 行列の対角化

行列の対角化の方法 行列の対角化とは 行列の対角化 正方行列$A$に対して、 \begin{align*} B=P^{-1}AP \end{align*} となる$B$が対角行列になるような正則行列$P$が存在するとき、行列$A$は対角化可能といいます。 対角化行列の性質 \begin{align*} B= \begin{pmatrix} b_1 & & & & \\ & b_2 & & & \\ && b_3 & & \\ & & & \ddots & \\ & & & & b_n \end{pmatrix} \end{align*} のとき、 \begin{align*} B^k= \begin{pmatrix} b_1^k & & & & \\ & b_2^k & & & \\ && b_3^k & & \\ & & & \ddots & \\ & & & & b_n^k \end{pmatrix} \end{align*} となることを利用します。$A$$=PBP^{-1}$が成り立つので、$P^{-1}P$$=E_n$(単位行列)を利用して、 \begin{align*} A^k &=(PBP^{-1})(PBP^{-1})\cdots(PBP^{-1}) \\ &=PBE_nBE_n\cdots E_nBP^{-1} \\ &=PB^nP^{-1} \\ \end{align*} また、$B^n$は先ほどのように簡単に計算できるので、 この式は任意の$n$に対して簡単

線形代数⑬ グラム・シュミットの直交化の方法

内積の定義とグラム・シュミットの直交化の方法 基底とは?基底の変換行列と表現行列 の記事で、基底というものを定義しましたが、グラム・シュミットの直交化の方法で正規直交基底を作り上げます。 内積とノルムの定義 一般には内積というのは、内積の公理を満たしていればどのようにとっても良いことになってます。 (参考: 内積と内積の公理 ) ただし、$n$成分ベクトル$\boldsymbol{a}$,$\boldsymbol{b}$に対しての内積は、多くの場合、 内積 \begin{align*} \boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}=a_1b_1+a_2b_2+\cdots +a_nb_n=\sum_{i=1}^na_ib_i \end{align*} と定義されます。特にベクトル解析の記事では3成分の場合について紹介していました。(参考: 内積とノルム ) また、ノルムを以下のように定義します。 ノルム ベクトル$\boldsymbol{a}$のノルムを以下のように定義します。 \begin{align*} \|\boldsymbol{a}\|=\sqrt{\sum_{i=1}^n a^2_i} \end{align*} 正規直交基底の定義 「正規」というのはノルムが1ということ、「直交」というのは内積が0ということを示します。つまり、基底$\{\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\cdots, \boldsymbol{v}_n\}$に対して、 \begin{align*} \boldsymbol{v}_i\cdot \boldsymbol{v}_j=\delta_{ij} \end{align*} が成り立つことを言います。ただし、右辺はクロネッカーのデルタというもので$i$$=j$のときのみ1、そのほかは0となるような基底のことを正規直交基底といいます。 グラムシュミットの方法 いま、基底$\{\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\cdots,\boldsymbol{u}_n\}$を用意します。ただし、いまはまだ正規化も直交化もされてい

線形代数⑫ 基底とは? 基底の変換行列と表現行列

表現行列とは? まず、基底を定義します。基底の変換行列を紹介したのちに表現行列というものに結び付けます。 基底とは何か? 基底 ベクトル空間$U$のベクトルの組$\{\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\cdots ,\boldsymbol{u}_n\}$について、 \begin{align} &\boldsymbol{u}_1&\boldsymbol{u}_2&\cdots &\boldsymbol{u}_n\text{は1次独立である} \label{eq:1}\\ & \text{ベクトル空間}U\text{上の任意のベクトルが}\boldsymbol{u}_1&\boldsymbol{u}_2&\cdots &\boldsymbol{u}_n\text{の線形和で表される。} \label{eq:2} \end{align} この2条件を満たすとき、$\{\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\cdots ,\boldsymbol{u}_n\}$を基底と呼びます。 \eqref{eq:2}のことを $U$を生成する ということもあります。 (参考: 1次独立・1次従属 ) 基底の変換行列とは? 基底の表し方はひととおりではないので、 \begin{align*} \begin{pmatrix} \boldsymbol{u}_1&\boldsymbol{u}_2&\cdots &\boldsymbol{u}_n \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} \boldsymbol{u}^\prime_1&\boldsymbol{u}^\prime_2&\cdots &\boldsymbol{u}^\prime_n \end{pmatrix} \end{align*} というように基底の変換を考えることができます。 基底の変換行列 以下の基底変換を結びつける行列$A$

線形代数⑪ 線形写像・核・像・退化次数の定義

線形写像・核・像・退化次数の定義 線形写像というものを定義して、その線形写像に対して核と像というものを定めます。核の次元が退化次数になります。 線形写像・像・核とは? 線形写像 ベクトル空間$U$から$V$への写像$T$について、$\boldsymbol{u},\boldsymbol{v}$$\in U$,$c$$\in\mathbb{C}$に対して、 \begin{align*} f(\boldsymbol{u})+f(\boldsymbol{v})&=f(\boldsymbol{u}+\boldsymbol{v}) \\ f(c\boldsymbol{u})&=cf(\boldsymbol{u}) \end{align*} が成り立つ$f$を線形写像といいます。 これが成り立つ例として、ベクトル$\boldsymbol{x}$と適当な行列$A$について、 \begin{align*} f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x} \end{align*} というものがあります。 像と核 ベクトル空間$U$から$V$への線形写像$f$の像(Image)と核(Kernel)をそれぞれ$\text{Im}(f)$、$\text{Ker}(f)$と表し、以下のように定義します。 \begin{align*} \text{Im}(f)&\stackrel{def}{=}\{f(\boldsymbol{u})|\boldsymbol{u}\in U\} \\ \text{Ker}(f)&\stackrel{def}{=}\{\boldsymbol{u}\in U|f(\boldsymbol{u})=\boldsymbol{0}\} \end{align*} 退化次数 ベクトル空間$U$から$V$への線形写像$f$の核(Kernel)について \begin{align*} \text{null}(f)\stackrel{def}{=}\text{dim}(\text{Ker}(f)) \end{align*}

線形代数⑩ 1次独立・1次従属

1次独立と1次従属の定義 1次というのは1次式ということなのですが、これは線形もいえるので、線形独立、線形従属という場合もあります。 1次独立・1次従属とは? ベクトル$\boldsymbol{u}_i$と$c_i$$\in \mathbb{C}$($i=$$1,2,\cdots ,n$,)に対して、線形結合 \begin{align*} \boldsymbol{v}=c_1\boldsymbol{u}_1+c_2\boldsymbol{u}_2+\cdots c_n\boldsymbol{u}_n \end{align*} と表される場合を考えます。ここで、$\boldsymbol{v}$$=\boldsymbol{0}$とすることを考えます。 1次独立・1次従属 \begin{align*} \boldsymbol{0}=c_1\boldsymbol{u}_1+c_2\boldsymbol{u}_2+\cdots c_n\boldsymbol{u}_n \end{align*} とした場合、解が \begin{align*} c_1=c_2=\cdots =c_n=0 \end{align*} に限る場合、1次独立といい、1次独立でない場合を1次従属といいます。 もし、1次従属の場合、さらに$c_n$$\ne 0$を仮定すると、 \begin{align*} \boldsymbol{0}=c_1\boldsymbol{u}_1+c_2\boldsymbol{u}_2+\cdots c_n\boldsymbol{u}_n \Rightarrow \boldsymbol{u}_n=-\dfrac{c_1}{c_n}\boldsymbol{u}_1-\dfrac{c_2}{c_n}\boldsymbol{u}_2-\cdots -\dfrac{c_{n-1}}{c_n}\boldsymbol{u}_{n-1} \end{align*} というように、あるベクトルがほかのベクトルで表されることになります。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

線形代数⑧ クラーメルの公式

クラーメルの公式とは? 連立方程式の解を求めたいときに、掃き出し法だとどうしても計算が煩雑になることがあります。そこで、クラーメルの公式という別の方法を紹介します。 ※行列式がうまく表示できない端末があるようです。 クラーメルの公式の内容 クラーメルの公式 \begin{align*} A&= \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{b}&={}^t \begin{pmatrix}  b_1 & b_2 & \cdots & b_n \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{x}&={}^t \begin{pmatrix}  x_1 & x_2 & \cdots & x_n \end{pmatrix} \end{align*} に対する連立方程式 \begin{align*} A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} \end{align*} の解の$i$番目の成分は、 \begin{align*} x_i= \begin{vmatrix}  a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1,i-1} & b_1 & a_{1,i+1} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_

線形代数⑦ 余因子展開・余因子行列

余因子行列・余因子展開 行列式の計算がかなり大変だったので、もう少し別のやり方で計算できないか探ってみましょう。(いや、大変なままですがね...) ※行列式の両端の線がうまく表示できない端末があるようです。 余因子展開の導出 行列式の性質を用いて余因子展開を導出します。(参考: 行列式の定義・性質とサラスの公式 ) \begin{align*} \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\  a_{i1}+b_{i1} & a_{i2}+b_{i2} & \cdots & a_{in}+b_{in} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{vmatrix} &= \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\  a_{i1} & a_{i2} & \cdots & a_{in} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{vmatrix} + \begin{vmatrix}

線形代数⑥ 行列式の定義・性質とサラスの公式

行列式の定義と計算方法 ※行列式の両端の線がうまく表示できない端末があるようです。 行列式の定義 行列式の計算方法 $n$次正方行列$A=[a_{ij}]$についての行列式を$\det{A}$、または、具体的な成分を明示して、 \begin{align*} \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{vmatrix} \end{align*} と表します。この計算は、全単射となる置換の集合$S$として、 \begin{align*} \det{A}=\sum_{\sigma\in S}\text{sgn}{(\sigma)}a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)} \end{align*} とします。 サラスの公式による計算例 2行2列の場合、置換として考えられるのは、$\sigma(1)=1$,$\sigma(2)=2$の場合(置換の符号は正)、または、$\sigma(1)=2$,$\sigma(2)=1$の場合(置換の符号は負)の2通りに限られます。よって、 \begin{align*} \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} \\ a_{21} & a_{22} \end{vmatrix} =a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21} \end{align*} これが右斜め下向きに項をかけ合わせたものから左斜め下向きに項を掛け合わせたものをひいた定義になるので、特にサラスの方法といいます。3行3列の場合についても似たような方法で計算

線形代数⑤ 置換・互換

互換と置換の符号 線形代数の話とは直接は関係ないのですが、行列式の定義に用いるので先に紹介します。 置換とは? 置換 写像$\sigma$$\{1,2,\cdots,n\}$$\to$$\{1,2,\cdots,n\}$を置換と呼びます。この対応関係を \begin{align*} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \end{pmatrix} \end{align*} と書きます。特に、$\sigma$が全単射の時のみ(ある数を選べば対応する要素が必ずある場合)を置換と呼ぶことも多いようです。 たとえば、 \begin{align*} \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 3 & 4 & 2 & 1 \end{pmatrix} \end{align*} という場合は1を3に、3を2に、2を4に、4を1に、というように置き換えるということになります。さらにこれを以下の様に表現することができます。 \begin{align*} \begin{pmatrix} 1 & 3 & 2 & 4 \end{pmatrix} \end{align*} 互換とは? 互換とは以下のようなことをいいます。 互換 \begin{align*} \begin{pmatrix} a\ b \end{pmatrix} \end{align*} これは$a$と$b$を入れ替えるということを指し、互換といいます。また、置換を互換に分解する公式があって、 \begin{align*} \begin{pmatrix} k_1\ k_2 \ k_3\ \cdots \ k_n

線形代数④ 掃き出し法による連立方程式の解法

掃き出し法による連立方程式の解法 行列というツールを用いて、連立方程式の解を求めましょう。 行列の形で連立方程式を表す 前回用いていた行列$A$として、 \begin{align*} A= \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 \\ -1 & 0 & -1 \\ 2 & 0 & 1 \end{pmatrix} \end{align*} を用います。ここで3元の連立方程式 \begin{align*} x&+y&+z&=6 \\ -x& &-z&=-4 \\ 2x& &+z&=5 \end{align*} を解くことを考えましょう。以下のように、縦ベクトル$\boldsymbol{x}$と$\boldsymbol{b}$($3$$\times$$1$の行列)を用意します。いま、ベクトルは太字にして書きます。(一般的にベクトルのみを太字で書くことが多いです。) \begin{align*} \boldsymbol{x}&= \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \\ \boldsymbol{b}&= \begin{pmatrix} 6 \\ -4 \\ 5 \end{pmatrix} \end{align*} こうおくと、連立方程式は \begin{align*} A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} \end{align*} となります。いま、$A$は係数を決める行列なので、 係数行列 といいます。上の式の辺々に左から$A^{-1}$をかけると、 \begin{align*} A^{-1}A\boldsymbol{x}=A^{-1}\bolds

線形代数③ 逆行列(掃き出し法と正則行列の定義)

掃き出し法による逆行列の計算 逆行列とはなにか?正則行列とはなにか?を定義してのちに逆行列を掃き出し法により求めます。 逆行列と正則行列の定義 逆行列と正則行列 $n$次正方行列($n\times n$の行列)$A$と$n$次の単位行列$E_n$について、 \begin{align*} AB=BA=E_n \end{align*} となる行列$B$を逆行列といい、$A^{-1}$とかきます。逆行列が存在する行列ような行列を正則行列といいます。 逆行列を持つためには正方行列でないといけません。また、 掃き出し法とは 掃き出し法による逆行列の計算 掃き出し法 $n$次正則行列$A$と$n$次単位行列$E_n$について、 \begin{align*} \begin{pmatrix} A & E_n \end{pmatrix} \end{align*} を簡約化すると、 \begin{align*} \begin{pmatrix} E_n & A^{-1} \end{pmatrix} \end{align*} が得られます。 \begin{align*} A=\begin{pmatrix} 1 & 1 & 1\\ -1 & 0 & -1\\ 2 & 0 & 1 \end{pmatrix} \end{align*} 前回簡約化を行った行列$A$の逆行列を掃き出し法によって求めましょう。以下のように右側に単位行列を加えた行列を簡約化します。(参考: 行列の簡約化 ) \begin{align*} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & -1 & 0 & 1 & 0 \\ 2 & 0 & 1 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \end{ali

線形代数⑭ 固有値・固有ベクトル・固有多項式

行列の固有値の計算方法と固有ベクトル 線形代数で習う固有値・固有ベクトルの問題ですが。量子力学でも固有値と固有ベクトルの考え方がわかっていると理解が楽になるような気がします。 固有値と固有ベクトルの定義 正方行列\(A\)(正確には線形変換と書いてあることが多いですが行列とかんがえておけばOKです。)と(縦の)ベクトル\(\boldsymbol{x}\),スカラー値\(\lambda\)に対して, \begin{align*} A\boldsymbol{x}=\lambda\boldsymbol{x} \end{align*} のようになるとき,\(\lambda\)を 固有値 ,\(\boldsymbol{x}\)を 固有ベクトル といいます。 固有多項式による固有値の求め方 左辺に項をまとめる あるベクトルの左側から,正方行列\(A\)をかけると,もとのベクトルのスカラー倍になる,という場合があります。そのスカラーが固有値,ベクトルを固有ベクトルといいます。たとえば最初に示した\(A\boldsymbol{x}=\lambda \boldsymbol{x}\)について,右辺にまとめると, ただ,このままだと, スカラーと行列の差 になっています。これはそのままでは計算できません。 そこで、 $\lambda$の後ろに単位行列をつけてあげればよい でしょう。つまり,\(A\)と同じ大きさの単位行列\(E\)を用いて, \begin{align*} (\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \end{align*} となります。 連立方程式が非自明な解を持つ条件 以下の連立方程式 \begin{align*} A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \end{align*} が非自明な解($\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}$以外の解)を持つ条件は、$A$が正則行列でないこと、つまり、$\det{A}$$=0$ということです。 固有ベクトルとしては零ベクトル以外が欲しいので、この条件を使って非自明な解が存在する条件を課します。 固有多項式の導出 今考えている式$(\lambda E-A)\bo

線形代数⑨ 部分空間の定義と部分空間の例

部分空間の定義と例の紹介 部分空間の定義をしますが、群の定義と似ていると思うので、それと関連して覚えるといいと考えやすいと思います。 群との関連を紹介 群論を習わずに線形代数だけやる人も多いと思いますが群の定義を知っていると部分空間が受け入れやすくなると思うので一応書いておきます。まあ興味がないor群論を全くかじってないなら無視してOKです。 群の定義 集合\(G\)の任意の元\(a,b,c\)と演算\(G\times G\mapsto G\)に対して以下の性質を満たすものを群と呼びます。 \begin{align} (a\cdot b)\cdot c=a\cdot (b\cdot c)\\ a\cdot e= e\cdot a =a\text{を満たす元}e\text{が存在する}\\ a\cdot a^{-1}=a^{-1}\cdot a=e\text{となる元}a^{-1}\text{が存在する} \end{align} 部分空間の定義 ベクトル空間\(V\)の部分集合\(U\)が\(U\)の和とスカラー倍によって閉じているとき\(U\)を\(V\)の部分空間といいます。 「閉じている」とは ある空間の要素どうしの和やある要素の定数倍をしても、その空間の要素になることを閉じている。たとえば,整数の集合のなかで1+1をすれば答は2になるので,整数+整数=整数というようにその集合の中で演算が完結します。これが\eqref{eq:la8.5},\eqref{eq:la8.6}の内容ですね。 部分空間であるための必要十分条件 部分空間であるための必要十分条件 ベクトル空間\(V\)の部分集合\(U\)について,以下が成り立つことが\(U\)が部分空間となるための必要十分条件です。 \begin{align} \boldsymbol{0}&\in U \label{eq:la8.4}\\ \boldsymbol{u},\boldsymbol{v}\in U&\Rightarrow \boldsymbol{u}+\boldsymbol{v}\in U \label{eq:la8.5}\\ \text{\(c\in\mathbb{C}\)に対して}\boldsym

線形代数② 簡約化

行基本変形による簡約化のコツ さて行列の簡約化をしたいわけですが、なぜこのようなことをするのかという動機から。当分の目的は、1次の連立方程式を解くことです。行列を使えば、従来の解き方よりもより機械的に解くことができて、実際問題、計算機に解かせることが多いわけですが、行列で書いたほうがプログラムを書くのがかなり楽です。 連立方程式の解き方と比べてみる たとえば、 $$ \left\{ \begin{align*} x+3y+2z&=13\\ 2x+3y-z&=5\\ x-3y-z&=-8 \end{align*} \right. $$ この方程式を解こうと考えます。実はこれは行列の積で書くことができて、 $$ \begin{pmatrix} 1 & 3 & 2\\ 2 & 3 & -1\\ 1 & -3 & -1\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x\\ y\\ z \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 13\\ 5\\ -8 \end{pmatrix} $$ こう書けるわけです。我々の目標は、最終的に $$ \left\{ \begin{align*} x&=1\\ y&=2\\ z&=3 \end{align*} \right. $$ というような結果に持っていくことです。この式を行列の積で無理やり表せば、 $$ \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x\\ y\\ z \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1\\ 2\\ 3 \end{pmatrix} $$ つまり,左上から右下へ向かって1が並んだ行列,つまり, 単位行列 をつくりだしたいわけです。 主成分の定義・主成分とは? $$ \begin{pmatrix} 1 & 0 & 2 & 3 & 0\\ 0 & 2 & 1 & 2 &am

線形代数① 行列の和と積

線形代数とは?行列とは? 行列の定義から紹介しますが、和までは受け入れやすいと思います。問題は積からで... 行列の型 行列というのはどのようなものかというと、たとえば、 \begin{align*} \begin{pmatrix} 1 & 3 & -2\\ 0 & 9 & 3 \\ \end{pmatrix} \end{align*} こんな感じに数字に並べたものです。ただそれだけ。ここで、横並びを 行 、縦並びを 列 といいます。今回は、行が2つ、列が3つあるので、2行3列の行列、$2\times 3$の行列といいます。 行列の和 行列の和を定義します。行列の演算が定義できるかどうかは 互いの型によって決まる というのが特徴です。 和の定義は簡単で 互いの型が一致するときのみ定義 されます。たとえば、一般に行列$A,B$を$m\times n$の行列として、その成分を$A=[a_{ij}],B=[b_{ij}]$と表します。(つまり、行列$A$の$i$行$j$列の成分が$a_{ij}$ということ) 行列の和 \begin{align*} A+B\stackrel{def}{=}[a_{ij}+b_{ij}] \end{align*} となります。つまり、同じ成分どうしを足せばいいということ。たとえば、 \begin{align*} \begin{pmatrix} 1 & 2 & -3\\ 2 & 4 & -2 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} -3 & 3 & 2\\ 2 & -3 & 0\\ \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} 1+(-3) & 2+3 & (-3)+2\\ 2+2 & 4+(-3) & (-2)+0 \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} -2 & 5 & -1\\ 4 & 1 & -2 \end{pmatrix} \end{align*} となります。 行列の定数倍(スカラーの積)