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量子力学⑯補足③ 連続の式(ディラック方程式)

ディラック方程式の流れは? シュレディンガー方程式やクラインゴルドン方程式と同様に連続の式と比べてみたいと思います。 ディラック方程式と連続の式 ディラック方程式 \begin{align} \left(i\gamma^\mu\partial_\mu-\dfrac{mc}{\hbar}\right)\psi=0 \label{eq-quantum163:1} \end{align} ただし、ガンマ行列$\gamma^\mu$は計量テンソル$\eta^{\mu\nu}$に対して、 \begin{align} \gamma^\mu\gamma^\nu+\gamma^\nu\gamma^\mu=2\eta^{\mu\nu} \label{eq-quantum163:2} \end{align} を満たします。 また、連続の式は以下の式です。 \begin{align} \dfrac{\partial\rho}{\partial t}+\nabla\cdot\boldsymbol{j}=0 \label{eq-quantum163:3} \end{align} ディラック共役を定義する ディラック共役を以下のように定義します。 ディラック共役$\bar{\psi}$ \begin{align*} \bar{\psi}=\psi^\dagger \gamma^0 \end{align*} さて、これらは行列として扱っているので順番は入れ替え不可能なことに注意してください。さて、なぜこのように定義するかというとローレンツ共変性を課すため、なのですが、その詳細な説明は複雑なのでここではしません。 ディラック方程式を変形する 以下の計算ではガンマ行列は定数行列であることに注意してください。 左からディラック共役をかける ディラック方程式\eqref{eq-quantum163:1}の左から$\bar{\psi}=\psi^\dagger\gamma^0$をかけてみます。 \begin{align*} \bar{\psi}\left(i\gamma^\mu\partial_\mu - \dfrac{mc}{\hbar}\right

量子力学 ①補足① 連続の式との関係

連続の式から確率流を考える 波動関数の絶対値の二乗が確率密度関数だと紹介しましたが、これはなぜそう言えるのでしょうか?ということについて少し考えてみます。 連続の式とは? 連続の式 \begin{align} \dfrac{\partial \rho}{\partial t}+\nabla\cdot \boldsymbol{j}=0 \label{\eq-quantum101:1} \end{align} という式が成り立ちます。抽象的ですが、$\rho$が密度、$\boldsymbol{j}$は単位面積当たりの流れです。 なぜ抽象的に密度とか単位面積当たりの流れという紹介をしたかというと、この式は様々な方向で使われているからです。これがシュレディンガー方程式にも適用できると考えてみます。 シュレディンガー方程式からの確率密度の導出 シュレディンガー方程式は以下のようにあらわされました。 \begin{align} i\hbar\dfrac{\partial\psi}{\partial t}=\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V\right)\psi \label{\eq-quantum101:2} \end{align} この辺々に左から波動関数の複素共役$\psi^*$をかけて、 \begin{align} i\hbar\psi^*\dfrac{\partial \psi}{\partial t}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\psi^*\nabla^2\psi+V\psi^*\psi \label{\eq-quantum101:3} \end{align} いま、時間と空間の微分項は演算子なので順番の入れ替えはしませんが、ポテンシャルに関しては演算子ではないので順番を入れ替えることが可能、ということを用いました。 次に、\eqref{\eq-quantum101:1}の辺々の複素共役を取ってみます。ただし、ポテンシャルは物理量なので複素共役を取ってもそのままで、 \begin{align*} -i\hbar\dfrac{\partial \psi^*}{\partial t}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2\psi^*+V\ps

量子力学⑱ 摂動:時間を含まない・縮退がない場合

縮退がなく時間を含まない場合の摂動 シュレディンガー方程式を解くためにはエネルギー固有値がわかる必要があり、必ずしも厳密買いが得られるとは限りません。 縮退とはなにか?摂動を使える条件 縮退とは?誤解を恐れずに書くと,同じエネルギー固有値を持つような状態が複数存在している場合のことです。さて,この縮退がないことと時間を含まないという仮定をもとに話を進めます。 摂動とは何か? 摂動というのは厳密に解けている状態から微小な変化があった時にエネルギー固有値・固有ケットにどのような変化が起こるのか?ということを知りたいわけです。以下,この微小な変化が加わる前の状態を非摂動状態と呼ぶことにします。 以下のシュレディンガー方程式を考えます。この方程式は厳密に解けているものとしましょう。 \begin{align} H_0\ket{\psi_n^{(0)}}=E^{(0)}_n\ket{\psi_n^{(0)}} \label{eq:1} \end{align} さて,ここでハミルトニアンに微小な変化があるものとしましょう。つまり, \begin{align*} H=H_0+V \end{align*} という新しいハミルトニアンを考えます。さてここで新たなシュレディンガー方程式を \begin{align} \left(H_0+\lambda V\right)\ket{\psi_n}=E_n\ket{\psi_n} \label{eq:2} \end{align} として解きましょう。ここで,新しく導入した$\lambda$は摂動の強さを表すパラメータで,最終的にはこれを1として考えます。ただ,一旦これをパラメータとして導入しましょう。ここで,エネルギー固有値と固有ケットを \begin{align*} \ket{\psi_n}&=\ket{\psi_n^{(0)}}+\lambda\ket{\psi_n^{(1)}}+\lambda^2\ket{\psi_n^{(2)}}+\cdots\\ E_n&=E_n^{(0)}+\lambda E_n^{(1)}+\lambda^2 E_n^{(2)}+\cdots \end{align*} という形に展開しましょう。これらを\eqref{eq:2}に代入します

量子力学 ⑯補足② ディラック方程式の負エネルギー解

ディラック方程式の解を負エネルギーに仮定する 前回はディラック方程式の相対論的極限を求めましたが、実は勝手に正のエネルギーを取っていました。ディラック方程式の前に導出していたクライン・ゴルドン方程式で生じていた負のエネルギー問題をもう一度再考してみます。 負のエネルギー解を仮定してスピノル計算 ディラック方程式というのはクラインゴルドン方程式をもとにしていて,そのクラインゴルドン方程式は, \begin{align*} E^2=\boldsymbol{p}^2c^2+m^2c^4 \end{align*} というところから出発していました。というわけで解として正負両方のエネルギーがでてきます。つまり以下のようなことです。 \begin{align*} E=\pm\sqrt{\boldsymbol{p}^2c^2+m^2c^4} \end{align*} 前回は何も言わずに正のエネルギー解を仮定して解を \begin{align*} \psi=e^{-i\frac{mc^2}{\hbar}t}\begin{pmatrix}\kappa\\ \chi\end{pmatrix} \end{align*} と仮定していました。このディラック方程式に含まれていてシュレディンガー方程式に含まれていない静止エネルギー分を除いたものです。さて,今回は負のエネルギーを考えたいので, \begin{align} \psi=e^{i\frac{mc^2}{\hbar}t}\begin{pmatrix} \kappa \\ \chi\end{pmatrix} \label{eq-quantum162:1} \end{align} という解を仮定します。さて,電磁場中では,前回記事の結果を用いれば,$\boldsymbol{\hat{p}}=-i\hbar\nabla-q\boldsymbol{A}$として, \begin{align*} \left\{\left(i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}-q\phi\right)-c\boldsymbol{\alpha}\cdot\boldsymbol{\hat{p}}-\beta mc^2\right\}\psi=0 \end{align*} でした。ここに\

量子力学 ⑯補足① パウリ方程式

荷電粒子のハミルトニアンをディラック方程式に適用する 荷電粒子のハミルトニアンは 解析力学の記事 で導出したように、以下のように表されます。電荷を$q$、ベクトルポテンシャルを$\boldsymbol{A}$,スカラーポテンシャルを$\phi$として、 \begin{align} \hat{H}=\dfrac{1}{2m}\left(\hat{\boldsymbol{p}}-q\boldsymbol{A}\right)^2+q\phi \label{eq-quantum161:1} \end{align} と表されました。また、共役運動量$\boldsymbol{\hat{p}}$は、 \begin{align} \boldsymbol{\hat{p}}=m\boldsymbol{\dot{r}}+q\boldsymbol{A} \label{eq-quantum161:2} \end{align} と表されました。 ディラック方程式の由来となるエネルギー表式 もとの相対論的エネルギーは? ディラック方程式は \begin{align} E=c\boldsymbol{\alpha}\cdot\boldsymbol{\hat{p}}+\beta mc^2 \label{eq-quantum161:3} \end{align} という式から出発して導出しました。ただし、ここでの$\boldsymbol{\hat{p}}$と$E$は、それぞれ以下のように演算子化されています。 \begin{align} \hat{E} &= i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}-q\phi \label{eq-quantum161:4}\\ \boldsymbol{\hat{p}}&=-i\hbar\nabla -q\boldsymbol{A} \label{eq-quantum161:5} \end{align} 演算子化の根拠 さて、なぜこんな複雑な演算子化をするのか?電磁場中のハミルトニアン\eqref{eq-quantum161:1}と共役運動量\eqref{eq-quantum161:2}を参考にして...もっと正確には電磁場の相互作用のゲージ不変性のため

量子力学⑰ スピンとブラケット記法(シュテルン・ゲルラッハの実験)

スピンをブラケット記法で表す せっかくブラケット記法という武器を手に入れたのでこれを用いてスピンの話をしてみましょう。 シュテルン・ゲルラッハの実験結果を考える 銀原子を考えます。銀原子は原子番号が47でK,L,M,N殻にはそれぞれ2,8,18,18の電子が詰まっていて最外殻に1つの電子があります。 つまり、銀原子は最外殻の電子を除けば対称的です。つまり、最外殻の電子の性質に大きく原子全体の性質が左右されます。 古典電磁気学的な磁気モーメントを考える $E-B$対応の立場からは磁気モーメントというのをループ電流として考えることができます。この電流の源を最外殻電子だと考えましょう。おそらく回転の向きというのは古典的な範疇ではランダムなはずです。 しかし、この銀原子を加速して、不均一磁場を加えたところスクリーンに現れた原子の軌道は 連続にならず、2つの軌道に分かれる という結果が得られました。 あまり詳しくしゃべりませんでしたが、この実験をもとに スピン という電子の自転に相当するようなものが考えられました。 スピンの向きを設定する たとえば、1次元の範疇で考えることにします。たとえば、準位が2つに分かれたのですから、上向きと下向きの名をつけて考えることにします。 主にスピンは$z$軸方向を基準に決められることが多いです。そこで、上向きスピンの状態を$\ket{\uparrow}$,下向きスピンの状態を$\ket{\downarrow}$と表すことにします。そして、これらが固有ケットになることにします。このスピンの角運動量の大きさは最小単位となりそうですが、不確定性原理から考えれば、$\dfrac{\hbar}{2}$とかけます。 上向きの電子を観測したときに$\dfrac{\hbar}{2}$,下向きの電子を観測したときに$-\dfrac{\hbar}{2}$と観測結果が得られるようにするには、$z$軸方向に測るスピン運動量演算子$\hat{S}_z$は、 \begin{align} \hat{S}_z\ket{\uparrow}&=\dfrac{\hbar}{2}\ket{\uparrow}\label{eq:1}\\ \hat{S}_z\ket{\downarrow}&=-\dfrac{\hbar}{

量子力学⑯ ディラック方程式とガンマ行列

ディラック方程式の導出・負の確率密度への対処 前回は以下のようなクラインゴルドン方程式を紹介しました。 \begin{align} \left(\dfrac{1}{c^2}\dfrac{\partial^2}{\partial t^2}-\nabla^2+\dfrac{m^2c^2}{\hbar^2}\right)\phi=\left(\partial_\mu\partial^\mu+\dfrac{m^2c^2}{\hbar^2}\right)\phi=0 \label{eq-quantum16:1} \end{align} この問題点は連続の式で$\rho$が負になりうるために確率解釈ができないことでした。その原因を時間の2階微分だと考えて、時間に関して1回微分の式を導いてみることにします。 ディラック方程式とは? ディラック方程式 \begin{align*} \left(i\gamma^\mu\partial_\mu-\dfrac{mc}{\hbar}\right)\psi=0 \end{align*} ただし、ガンマ行列$\gamma^\mu$は計量テンソル$\eta^{\mu\nu}$に対して、 \begin{align*} \gamma^\mu\gamma^\nu+\gamma^\nu\gamma^\mu=2\eta^{\mu\nu} \end{align*} という関係があります。 ディラック方程式の導出 相対論的なエネルギーの式は \begin{align*} E^2=m^2c^4+p^2c^2 \end{align*} でした。ここに演算子 \begin{align*} \hat{E}&=i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t} \\ \hat{p}&=-i\hbar\nabla \end{align*} をそのまま代入すると時間の2階微分が現れます。それでは困るので何とかして時間の一回微分の関数を考えましょう。というわけで3次元の定ベクトル$\boldsymbol{\alpha}$と定数$\beta$を用いて、以下のような式を仮定します。ただし、$\boldsymbol{\alpha}$と$\beta$

量子力学⑮ クライン・ゴルドン方程式と確率密度の問題

クライン・ゴルドン方程式と確率解釈 Klein-Gordon方程式を紹介します。シュレディンガー方程式は時間に関しては1階微分、空間座標に関しては2階微分なので、空間と時間を同等に扱う相対性理論としては不適切な式でしょう。これを解決するために相対論的なエネルギーの式から導出を始めます。 クライン・ゴルドン方程式とは? クライン・ゴルドン方程式 \begin{align} \left(\partial_\mu \partial^\mu+\dfrac{m^2c^2}{\hbar^2}\right)\phi=0 \label{eq-quantum15:1} \end{align} ただし、$\partial_\mu=\left(\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t},\nabla\right)$,$\partial^\mu=\left(\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t},-\nabla\right)$としています。 相対論的なエネルギーを計算する 相対論的にはエネルギーというのは \begin{align*} E^2=\boldsymbol{p}^2c^2+m^2c^4 \end{align*} という式からスタートします。この物理量エネルギー、運動量を \begin{align*} \hat{E}&= i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t} \\ \boldsymbol{p}&= -i\hbar \nabla \end{align*} というように演算子で置き換えて波動関数$\phi$をつけると、 \begin{align*} -\hbar^2 \dfrac{\partial^2}{\partial t^2}\phi=\left(-c^2\hbar^2\nabla^2+m^2c^4\right)\phi \end{align*} この辺々を$\hbar^2c^2$でわって整理すると、、 \begin{align} \left(\dfrac{1}{c^2}\dfrac{\partial^2}{\partial t^2}-\nabla^2+\dfrac

量子力学⑭ ハイゼンベルクの運動方程式

ハイゼンベルク方程式の導出 ハイゼンベルク表示(描像)を紹介したので、その描像での運動方程式を紹介します。 ハイゼンベルク方程式とは? ハイゼンベルクの運動方程式 ハイゼンベルク表示の物理量演算子$A^{(H)}$について、ハミルトニアン$H$を用いて、 \begin{align} \dfrac{dA^{(H)}}{dt}=\dfrac{[A^{(H)},H]}{ih} \label{eq:1} \end{align} というわけで導出します。 時間発展演算子でシュレディンガー描像と結びつける シュレディンガー表示での物理量$A^{(S)}$とハイゼンベルク表示での物理量$A^{(H)}$には時間発展演算子$\hat{U}=\exp{\left(-\dfrac{i\hat{H}}{\hbar}t\right)}$に対して、 \begin{align} A^{(H)}=\hat{U}^\dagger A^{(S)}\hat{U} \end{align} と表されます。まずはこの式を導出します。まず、シュレディンガー表示では時間変化は状態ケットに含まれているので、 \begin{align} \ket{\psi}_S=\hat{U}\ket{\psi}_H \label{eq:3} \end{align} と表せます。添え字は$S$はシュレディンガー表示、$H$はハイゼンベルク表示ということを示しています。 ここで、\eqref{eq:3}式の辺々の随伴を取ります。ケットベクトルの随伴はブラベクトルで、積は順番が入れ替わるので、 \begin{align} _S\bra{\psi}= {}_H\bra{\psi}\hat{U}^\dagger \label{eq:4} \end{align} となります。いまシュレディンガー表示の物理量$A^{(S)}$の期待値を考えます。\eqref{eq:3},\eqref{eq:4}式を用いれば、その期待値は以下のように変形できます。 \begin{align} _S\braket{\psi|A^{(S)}|\psi}_S= {}_H\braket{\psi|\hat{U}^\dagger A^{(S)}\hat{U}|\psi}_H

量子力学⑬ 調和振動子と不確定性関係

生成消滅演算子で不確定性関係を示す 今回も生成消滅演算子を用いて話を進めます。そこから不確定性関係を示しに行きます。 \begin{align*} \hat{a}&=\sqrt{\dfrac{m\omega}{2\hbar}}\left(\hat{x}+\dfrac{i\hat{p}}{m\omega}\right)\\ \hat{a}^\dagger&=\sqrt{\dfrac{m\omega}{2\hbar}}\left(\hat{x}-\dfrac{i\hat{p}}{m\omega}\right) \end{align*} というのをそれぞれ消滅演算子、生成演算子と呼んだのでした。この二つの式を足しひきすれば、 \begin{align*} \hat{x}&=\sqrt{\dfrac{\hbar}{2m\omega}}\left(\hat{a}+\hat{a}^\dagger\right)\\ \hat{p}&=i\sqrt{\dfrac{m\hbar\omega}{2}}\left(\hat{a}^\dagger-\hat{a}\right) \end{align*} となります。ここで、これらの期待値を計算してみます。$\hat{a}\ket{n}=c_{n-}\ket{n}$,$\hat{a}\ket{n}=c_{n+}\ket{n}$というように係数をおきます。(前回実数として求めましたが、一般に成り立つようにするためにこうおきました。)さてさて、位置に関する期待値は、 \begin{align*} \braket{n|\hat{x}|n}&=\bra{n}\sqrt{\dfrac{\hbar}{2m\omega}}\left(\hat{a}+\hat{a}^\dagger\right)\ket{n}\\ &=\sqrt{\dfrac{\hbar}{2m\omega}}\braket{n|\left(\hat{a}+\hat{a}^\dagger\right)|n}\\ &=\sqrt{\dfrac{\hbar}{2m\omega}}\left(\braket{n|\hat{a}|n}+\braket{n|\hat{a}^\dagger|n}\right)\\

量子力学⑫ 生成消滅演算子

生成消滅演算子とハミルトニアンとの関係 生成消滅演算子というものを紹介します。 生成・消滅演算子をこうおいてみる いきなりですが1次元で以下のように演算子を置いてみましょう 生成消滅演算子 $\hat{x},\hat{p}$はエルミートで随伴をとっても等しいことを利用します。 $\hat{a}$が消滅演算子、$\hat{a}^\dagger$を生成演算子として、 \begin{align*} \hat{a}=\sqrt{\dfrac{m\omega}{2\hbar}}\left(\hat{x}+\dfrac{i\hat{p}}{m\omega}\right) \end{align*} \begin{align*} \hat{a}^\dagger=\sqrt{\dfrac{m\omega}{2\hbar}}\left(\hat{x}-\dfrac{i\hat{p}}{m\omega}\right) \end{align*} これがなぜかというのは後程。 個数演算子の導入 $\hat{a}^\dagger \hat{a}$を計算してみましょう。もちろん正準交換関係$[\hat{x},\hat{p}]=i\hbar$を用います。 \begin{align*} \hat{a}^\dagger\hat{a}&=\dfrac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat{x}-\dfrac{i\hat{p}}{m\omega}\right)\left(\hat{x}+\dfrac{i\hat{p}}{m\omega}\right)\\ &=\dfrac{m\omega}{2\hbar}\left\{\left(\hat{x}\right)^2+\dfrac{i\hat{x}\hat{p}}{m\omega}-\dfrac{i\hat{p}\hat{x}}{m\omega}+\dfrac{\left(\hat{p}\right)^2}{m^2\omega^2}\right\}\\ &=\dfrac{m\omega}{2\hbar}\left\{(\hat{x})^2+\dfrac{(\hat{p})^2}{m^2\omega^2}+\dfrac{i[\hat{x},\hat{p}]}{m

量子力学⑪ シュレディンガー描像・ハイゼンベルク描像

シュレディンガー描像・ハイゼンベルク描像の違いとは? シュレディンガー描像とハイゼンベルク描像というものの考え方について式中で説明します。 期待値を時間発展演算子で表してみる 前回の記事で説明した時刻$t_0\to t$の時間発展を記述する演算子$U(t,t_0)$は状態を表すケットに作用して, \begin{align*} \ket{\psi(t)}=U(t,t_0)\ket{\psi(t_0)} \end{align*} とできるのでした。これに従って時刻$t$での可観測量$\hat{O}$の演算子の期待値を取ると、 \begin{align*} \braket{\psi(t)|\hat{O}|\psi(t)}=\braket{\psi(t_0)|U^\dagger (t,t_0)\hat{O}U(t,t_0)|\psi(t_0)} \end{align*} ここで、$\hat{O}(t,t_0)=U^\dagger(t,t_0)\hat{O}U(t,t_0)$とすれば初期時刻のブラケットのみを用いて期待値を \begin{align*} \braket{\psi|\hat{O}(t,t_0)|\psi} \end{align*} とできそうです。 最初に行ったように状態を表すケットが時間変化していくと考えた場合の話を シュレディンガー描像 、逆に演算子のほうが時間変化していくと考えたときのことを ハイゼンベルク描像 といいます。 どちらが適切な表現なのか? 別にどちらが正しいとかいうことはないですが、どう考えるかの違いです。ただこの表現を混ぜて考えるとまずいことになるのでいまどちらを考えているのかというは注意しておく必要があります。 [ 前の記事へ ] [ 次の記事へ ]

量子力学⑩ 時間発展演算子

時間発展演算子の導出方法とは? 波動力学の分野にある この記事 で実は時間についての方程式を無視していました。もう一度この話をしてみます。 シュレディンガー方程式から時間要素だけを取り出す 時間に依存するシュレディンガー方程式は1次元では \begin{align*} i\hbar \dfrac{\partial \psi(x,t)}{\partial t}=\left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x)\right\}\psi(x,t) \end{align*} と書けるのでした。これをこのままの形で解くのは難しいので、変数分離をしたのでした。たとえば、$\psi(x,t)=\varphi(x)T(t)$という形にすれば、 \begin{align*} i\hbar \varphi(x)\dfrac{\partial T(t)}{\partial t}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}T(t)\dfrac{\partial^2\varphi(x)}{\partial x^2}+V(x)\varphi(x)T(t) \end{align*} という形になります。$\varphi(x)$は時間に対して定数なので時間微分の演算子はスルーしました。この辺々を$\varphi(x)T(t)$でわります。(微分項は割っても消えないことに注意してください) この先もう変数分離をしているのでわざわざ偏微分と常微分を区別する必要がなくなります。というわけでやりやすいように常微分に変えてやります。 \begin{align*} i\hbar \dfrac{1}{T(t)}\dfrac{dT(t)}{dt}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{1}{\varphi(x)}\dfrac{d^2\varphi(x)}{dx^2}+V(x) \end{align*} この右辺は$t$の、左辺は$x$の関数なので、この辺々が定数にならないと恒等的にこの式が成り立つということはないでしょう。よって、辺々を定数に等しいと置きますが、もう一度扱っているのでネタバレをしておきます。辺々は全エネルギー$E$に等しいとおけばよくて、 \begin{a

量子力学⑨ ブラケット(ディラックの記法)・エルミート演算子

ブラケット記法(ディラックの記法)の基本 抽象的な概念であるブラケット記法についてまとめてみます。 ブラケットとは? ブラケットの表記は正確には行列とは別のものとして扱うべきとも書いてあったりしますが、行列として考えると考えが楽になります。ので、行列として紹介します。 ケットベクトルとは? ここがかなり抽象的です。だいぶ無理矢理な話ですが、状態というのを \begin{align*} \ket{\psi} \end{align*} で表すことにしてこれを ケットベクトル と呼ぶことにします。これが状態の正体です。そして、これは 縦ベクトル に対応します。 ブラベクトルとは? ブラベクトルというものを定義します。ケットベクトル$\ket{\psi}$を用いて、ブラベクトル$\bra{\psi}$を \begin{align*} \bra{\psi}=\left(\ket{\psi}\right)^\dagger \end{align*} と定めます。この右上につけた$\dagger$は 随伴行列 を表す記号であり、縦ベクトルであるケットベクトルの随伴行列(各成分の複素共役を取って転置した行列)となるので、横ベクトルとなります。 複素内積をベクトルで表す 複素内積をたとえば、1次元では \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty \psi^*\phi dx \end{align*} というように取ります。つまり全範囲で積分するということです。実はこれは \begin{align*} \braket{\psi|\phi} \end{align*} と表せます。いま、ブラとケットの間の縦線は二本重なってしまうので、このように一本だけにしておくのが慣例です。とりあえず、ブラケット記法によって内積がすごく簡潔に表されるということがわかりました。 また、辺々の複素共役を取れば、 \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty \phi^* \psi^* dx=\braket{\phi|\psi} \end{align*} 状態の規格化をしておく 波動力学でもあったように、 \begin{align*} \braket{\psi|\psi}=\i

量子力学⑧ 水素原子模型

主量子数、軌道量子数、磁気量子数とは? 今回、中心力に対するポテンシャルをシュレディンガー方程式に適用します。微分方程式を解くうえで、取りうる角度条件などに制限がかかり、結果としてエネルギー固有値などが離散化されることになります。 水素原子をモデルに考える 水素原子(陽子1個、電子1個からなる軽水素)を考えてシュレディンガー方程式を解くことを考えます。というのも、複数の電子が絡んだ系を厳密に解くのは難しいので、水素原子について解析してそれを応用してみましょう。 陽子は電子よりも十分質量が大きく動かないとして考えます。 水素原子のポテンシャルエネルギーは、陽子を中心とした半径$ r $の関数として、無限遠を基準に取ると、電気素量を$ e $、誘電率を$ \varepsilon $として、 \begin{align*} V(r)=-\dfrac{e^2}{4\pi\varepsilon r} \end{align*} となるので、時間に依存しないシュレディンガー方程式は、エネルギーを$ E $として、 \begin{align*} \left(-\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2-\dfrac{e^2}{4\pi\varepsilon r}\right)\psi=E\psi \end{align*} ここで、一つ問題があります。$ \nabla $というのは$ x,y,z $で表されているので、ポテンシャルが半径の関数で表されていることと都合が悪くなります。というわけで、このナブラを球座標に変換しましょう。球座標と直交座標の関係は以下のように表されたのでした。 \begin{align*} x &= r\sin{\theta}\cos{\phi}\\ y &= r\sin{\theta}\sin{\phi}\\ z &= r\cos{\theta} \end{align*} この変換を行うと、ラプラス演算子は、 \begin{align*} \nabla^2&=\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial y^2}+\dfrac{\partial^2}{\part