量子力学⑤ 無限に深い井戸型ポテンシャル
エネルギーの離散化・量子化
ポテンシャルとして両端に無限大のポテンシャルを設定すると、ポテンシャルの内側でエネルギーがとびとびの値、離散的な値的になるということが導けます。一番簡単な例ですが、量子力学らしい性質が出てきます。無限の深さの井戸型ポテンシャルを用意する
一次元の時間に依存しないシュレディンガー方程式\begin{align}
\left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{d^2}{d x^2}+V(x)\right\}\psi(x)=E\psi(x) \label{eq-quantum5:1}
\end{align}
をポテンシャル
$$V(x)=\left\{
\begin{align*}
& 0 & &(0\lt x \lt d)\\
& \infty & & (x\leq 0,d\leq x)
\end{align*}
\right.$$
に対して解くことを考えます。
ポテンシャル零の自由領域
この範囲でのシュレディンガー方程式は\begin{align*}
-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{d^2\psi(x)}{dx^2}&=E\psi(x)\nonumber\\
&\therefore \dfrac{d^2\psi(x)}{dx^2}=-\dfrac{2mE}{\hbar^2}\psi(x)
\end{align*}
これは2階線形常微分方程式、単振動と同じ方程式なので簡単に解くことができます。
\begin{align}
\psi(x)=A\cos{\left(\dfrac{\sqrt{2mE}}{\hbar}x\right)}+B\sin{\left(\dfrac{\sqrt{2mE}}{\hbar}x\right)} & \ \ \ (0\lt x\lt d) \label{eq-quantum5:2}
\end{align}
ポテンシャル無限大の領域
この領域ではポテンシャルが無限大で粒子が入り込むことができません。つまり存在確率は0です。つまり、確率密度関数を表す$|\psi(x)|^2$は0、つまり波動関数自身も0ということになります。\begin{align}
\psi(x)=0&\ \ \ (x\lt 0,d\lt x) \label{eq-quantum5:3}
\end{align}
となります。
一次元の波動関数の境界条件を課す
波動関数に境界条件を課す必要があります。境界点で波動関数の値が連続になっていてほしいわけです。\begin{align}
\lim_{x\uparrow 0}\psi(x)&=\lim_{x\downarrow 0}\psi(x) \label{eq-quantum5:4}\\
\lim_{x\uparrow 0}\psi(x)&=\lim_{x\downarrow 0}\psi(d+0) \label{eq-quantum5:5}
\end{align}
これはつまり、
\begin{align}
A&=0 \tag{\ref{eq-quantum5:4}'}\\
A\cos{\left(\dfrac{\sqrt{2mE}}{\hbar}d\right)}+B\sin{\left(\dfrac{\sqrt{2mE}}{\hbar}d\right)}&=0 \tag{\ref{eq-quantum5:5}'}
\end{align}
ということです。二つ目の式は引数の部分が$n\pi$($n$は0以外の整数)となればよいので、
\begin{align}
\dfrac{\sqrt{2mE}}{\hbar}=\dfrac{n\pi}{d} \label{eq-quantum5:6}
\end{align}
と変形できます。つまり、自由領域での波動関数は、
\begin{align*}
\psi(x)=B\sin{\dfrac{n\pi}{d}x}\ \ \ (0\lt x\lt d)
\end{align*}
と求められます。
波動関数の規格化をする
波動関数は定数に自由度があるので一意には定まらない、そこで、規格化で定数を定める方法があることを前回までで紹介しました。規格化を式で表すと以下のようになります。\begin{align}
\int_{-\infty}^{\infty}|\psi(x)|^2dx=1
\end{align}
この条件を満たすように定数$B$を決めましょう。$|\psi(x)|^2=\psi^*(x)\psi(x)$,ポテンシャル領域では波動関数は0であることに注意すれば、
\begin{align*}
\int_0^d B^*B\sin^2{\dfrac{n\pi}{d}x}dx&=\dfrac{|B|^2}{2}\int_0^d\left\{1-\cos{\dfrac{n\pi}{d}x}\right\}dx
&=\dfrac{|B|^2d}{2}
\end{align*}
これが1に等しくなるように定数$B$を定めたいわけです。$B$は複素数の範囲なのでいろいろまだ自由度があるわけですが、単一の波動関数しか影響がないときには絶対値のみが物理的意味を持つので、一番明快に実数で正に取ると、
\begin{align}
B=\sqrt{\dfrac{2}{d}}
\end{align}
つまり、自由領域での波動関数は、
\begin{align}
\psi(x)=\sqrt{\dfrac{2}{d}}\sin{\dfrac{n\pi}{d}x}
\end{align}
と求められました。
エネルギーが離散化されている
エネルギーの離散化を確認します。\eqref{eq-quantum5:6}式をエネルギーについて解いてみると、\begin{align}
E=\dfrac{n^2\pi^2\hbar^2}{2md^2}
\end{align}
ここで、$n$は0以外の整数なのでこれは離散的エネルギーになっていることが確かめられました。ちなみに$n$は0以外の整数ということから、
\begin{align}
E=\dfrac{\pi^2\hbar^2}{2md^2}
\end{align}
が最低エネルギーになります。これを零点エネルギーと呼びます。(零点と呼びながら$n$は0ではないです。紛らわしい...)