統計力学③ 補足① 古典的ミクロカノニカル分布 このエントリーをはてなブックマークに追加

ミクロカノニカル分布を古典的に

ミクロカノニカル分布の導出では取りうる状態にラベリングしていましたが、これは暗に離散化していることになります。今回は、それを古典的に移行するために連続量として扱います。

導出の準備:確率密度の考え方

統計力学では統計学の知識がちょこちょこと必要になります。少し復習です。確率密度関数を$f(x)$を考えるわけですが、観測値$X$がxとなる確率は$f(x)$を用いて計算できるのですが、これは直接$f(x)$が求める確率、というわけにはいきません。どうするかというと、たとえば、$f(x)dx$などと書きます。

たとえば、量子力学で同じことをやっています。波動関数が$\psi(x)$のとき、この粒子が$x$~$x+dx$にある確率は$|\psi(x)|^2dx$と表せます。 このように少し幅をもたせてあげないと確率モデルを考えるうえで少し都合が悪いことになります。

参考:統計① 期待値・分散と密度関数・分布関数


位相空間を考える

系のエネルギーを$E$、粒子数を$N$とします。この系が体積$V$の箱のなかにある状況を考えます。一旦、位相空間の超体積を考えたいのですが、とりあえず運動量のことを考えます。いま、エネルギーは、粒子の質量を$m$として、
\begin{align} E&=\sum_i^N\dfrac{\boldsymbol{p_i}^2}{2m}\nonumber \\ &=\sum_{i=1}^N \left(\dfrac{p_{ix}^2}{2m}+\dfrac{p_{iy}^2}{2m}+\dfrac{p_{iz}^2}{2m}\right) \nonumber \end{align}
これは合計で$3\times N=3N$個の運動量成分とエネルギーの関係を示しています。これを少し変形すると、
\begin{align} p_{1x}^2+p_{1y}^2+p_{1z}^2+\cdots +p_{Nx}^2+p_{Ny}^2+p_{Nz}^2=2mE \label{eq-sm3:1} \end{align}
これは$3N$次元球になります。ここで、数学的な側面から$n$次元球の体積は、
\begin{align*} \dfrac{\pi^{\frac{n}{2}}r^n}{\Gamma\left(\frac{n}{2}+1\right)} \end{align*}
と表されるので、$\eqref{eq-sm3:1}$式が表す$3N$次元球超体積は、
\begin{align} \dfrac{\pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}}}{\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)} \label{eq-sm3:2} \end{align}
となります。これが運動量の満たす超空間...といいたいところですが、そんなわけにはいかず...これはエネルギーが$E$以下の空間になります。そこで、最初に説明した話に従って、エネルギーに幅を持たせた確率モデルを考えましょう。$E$~$E+\delta E$にある粒子を考えることにしましょう。$\eqref{eq-sm3:1}$式の$E$を、$E+\delta E$と置き換えた超球を考えます。その超体積は、
\begin{align} \dfrac{\pi^{\frac{3N}{2}}\left\{2m(E+\delta E)\right\}^{\frac{3N}{2}}}{\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}&\approx\dfrac{\pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}}}{\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}+\dfrac{3Nm \pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}-1}}{\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}\delta E \label{eq-sm3:3} \end{align}
つまり、半径$\sqrt{2mE}$の$3N$次元球と半径$\sqrt{2m(E+\delta E)}$の3$N$次元球の体積の差は、$\eqref{eq-sm3:2},\eqref{eq-sm3:3}$式の差を取って、
\begin{align*} \dfrac{3Nm \pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}-1}}{\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}\delta E \end{align*}
これが今考えている系の位相空間のうち運動量によるものだといえます。ここで、位置座標から見れば粒子がとりえるのは体積$V$の箱の中なので、$N$個の粒子によって$V^{N}$だけの超体積を考えればよいことになります。つまり、粒子が占める位相空間の超体積は、テイラー展開により、
\begin{align} \dfrac{3Nm \pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}-1}V^{N}}{\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}\delta E \label{eq-sm3:4} \end{align}
となります。

位相空間超体積から状態数を求める

状態数を求めたいわけですが、状態数は無次元です。さてどうやって無次元にしましょうか...ここでハイゼンベルクの不確定性原理
\begin{align*} \Delta x\cdot \Delta p\sim h \end{align*}
を考えると、いま、3$N$個の$x,p$の組み合わせが存在するので、辺々が$h$を単位とする$3N$次元の超空間とみなすことができそうです。よって、$\eqref{eq-sm3:4}$式の辺々を$h^{3N}$でわって、
\begin{align} \dfrac{3Nm \pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}-1}V^N}{h^{3N}\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}\delta E \label{eq-sm3:5} \end{align}
ここで、系の構成員である分子はすべて同種分子であると考えます。すべての粒子が区別がつかないと考えると、$N!$で割ってあげる必要があり、$\eqref{eq-sm3:5}$式は
\begin{align} \dfrac{3Nm \pi^{\frac{3N}{2}}\left(2mE \right)^{\frac{3N}{2}-1}V^N}{h^{3N}N!\Gamma\left(\frac{3N}{2}+1\right)}\delta E \label{eq-sm3:6} \end{align}
こんなふうに状態数を求めることができます。



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