統計力学③ ミクロカノニカル分布 このエントリーをはてなブックマークに追加

ミクロカノニカル分布を計算する

ミクロカノニカルアンサンブル(小正準集団)、カノニカルアンサンブル(正準集団)、グランドカノニカルアンサンブル(大正準集団)という3種類の集団を考えますが、ここではミクロカノニカルアンサンブルについて紹介します。

ミクロカノニカルアンサンブルの仮定

各アンサンブルの違いはエネルギー、粒子数の変化を許すか否かということです。ミクロカノニカルアンサンブルでは、エネルギーも粒子数も変化しないものとして考えます。

ラグランジュの未定乗数法でエントロピーの極値を求める

エントロピーは増大するので,極値になる点で変化が平衡状態に至るでしょう。というわけで極大になる条件を求めます。

ラグランジュの未定乗数法とは?

詳細な説明はしませんが、たとえば,$f(x,y)=x^2+y^2-1=0$という束縛条件の下で関数$g(x,y)$の極値を求めたいときには,未定乗数$\lambda$を用いて,
\begin{align*} h(x,y)=g(x,y)-\lambda f(x,y) \end{align*}
という関数を新たに設定して,
\begin{align*} \dfrac{\partial h}{\partial x}=\dfrac{\partial h}{\partial y}=\dfrac{\partial h}{\partial \lambda}=0 \end{align*}
という条件を課せば極値がもとまります。

小正準集団での束縛条件は?

まず、取りうる状態すべてに番号をラベリングします。$i$番目の状態を取る確率を$p_i$とします。今回は粒子数は一定、エネルギーも一定の状況を考えているので、動くのは$p_i$だけです。ただし、もちろん、この確率はすべての状態に対する和を取れば1になるはずです。つまり、
\begin{align*} \sum_j p_j=1 \end{align*}
となるはずです。この式を=0の形に変形して用います。

エントロピーの極値をもとめる

未定乗数$\lambda$として、以下のような関数$f$を考え、エントロピーが極値をとる$p_i$を求めます。
\begin{align*} f&=S-\lambda\left(\sum_j p_j-1\right) \\ &=-k_B\sum_j p_j \log{p_j}-\lambda \left(\sum_j p_j-1\right) \end{align*}
ここで、$p_i$で偏微分します。$j=i$のときのみ項が残って、
\begin{align*} \dfrac{\partial f}{\partial p_i} &=-k_B(\log{p_i}+1)-\lambda \\ &=-k_B\log{p_i}-k_B-\lambda \end{align*}
さて、極値を取る必要条件は、$\dfrac{\partial f}{\partial p_i}=0$なので、
\begin{align*} \log{p_i}&=-1-\dfrac{\lambda}{k_B} \\ p_i&=\exp{\left(-\dfrac{\lambda}{k_B}-1\right)}=\text{一定} \end{align*}
よって、$p_i$を定数$C$とおいておきます。ここで、束縛条件に戻すと、
\begin{align*} \sum_i C=1 \end{align*}
取りうる状態数が$W$とすると、
\begin{align*} WC&=1 \\ \therefore C&=\dfrac{1}{W}=p_i \end{align*}
つまり、どの状態も取りうる確率は同じということになります。統計学的には一様分布にあたります。

エントロピーは凹関数となる

エントロピー$S$は、ボルツマン定数を用いて、
\begin{align} S=-k_B \sum_{i}p_i\log{p_i} \label{eq-sm3:1} \end{align}
となります。ところで、熱力学のエントロピーの性質から自発変化はエントロピーが極大(凹関数なので最大といっても良いです。)になるときに平衡状態になります。$\eqref{eq-sm3:1}$式のから凹関数であることを確認しましょう。 ここで、$0 \lt x \lt 1$の範囲で、
\begin{align*} f(x)=-x\log{x} \end{align*}
として、関数$f(x)$の極小を求めます。微分すれば、
\begin{align*} f^\prime(x)&=-\log{x}-1\\ f^{\prime\prime}(x)&=-\dfrac{1}{x} \end{align*}
よって増減表は、 \begin{array}{c|ccccc} x & 0 & \cdots & \dfrac{1}{e} & \cdots & 1 \\ \hline f^\prime(x) & (\infty) & + & 0 & - & (-1) \\ \hline f^{\prime\prime}(x) & (-\infty) & - & -e & - & (-1) \\ \hline f(x) & (0) & \nearrow & \dfrac{1}{e} & \searrow & 0 \end{array} となり、関数$f(x)$が上に凸の関数であることがわかりました。

凹関数の性質からも一様分布を確かめる

凹関数の性質として、一般に、
\begin{align} f\left(\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^n x_i\right)\geq \dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^nf(x_i)\label{eq-sm3:2} \end{align}
が成り立ちます。特に$n=2$の場合が想像つきやすいと思うので、これが信じられないなら$n=2$を考えてみてください。$x_i=p_i$とすれば、
\begin{align*} f\left(\dfrac{1}{n}\right)\geq \dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^n p_i \log{p_i}\left(\because \sum_{i=1}^n p_i=1\right) \end{align*}
すなわち、
\begin{align} -k_B\sum_{i=1}^n p_i\log{p_i}\leq -k_B\log{\dfrac{1}{n}}\label{eq-sm3:9} \end{align}
ここで、$\eqref{eq-sm3:9}$式の左辺は$\eqref{eq-sm3:1}$式なので、
\begin{align} S\leq -k_B \log{n} \label{eq-sm3:3} \end{align}
この左辺はシャノンのエントロピー関数で、$p_i=\dfrac{1}{n}$としたものです。これはすべての状態の取る確率が均一な分布、統計学的に言えば、一様分布となります。これが平衡状態での分子の状態分布になります。



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