熱力学⑦ カルノーサイクル・カルノーの定理 このエントリーをはてなブックマークに追加

カルノーサイクルの熱効率と仕事

カルノーサイクルでは断熱変化と等温変化を繰り返す可逆サイクルのことです。

カルノーサイクルの$p-V$グラフの面積を求める

たとえば以下のようなサイクルを考えましょう。

状態A→B:等温膨張
状態B→C:断熱膨張
状態C→D:等温圧縮
状態D→A:断熱膨張


というサイクルを考えます。状態$A$のときの圧力を$p_A$、体積を$V_A$、絶対温度を$T_A$のように添え字に状態を添えて表すことにします。


状態A→B:等温膨張

この過程で吸収する熱量$Q_{A\to B}$、外部にする仕事$W_{A\to B}$を計算しましょう。圧力$p$は体積と温度の関数で表しなおすことができて、いま等温過程を考えているので$T$は定数($T=T_A=T_B$)とみなすことができて、また,気体の状態方程式$p=\dfrac{nRT}{V}$を用いて,
\begin{align} W_{A\to B} &=\int_{V_A}^{V_B}pdV\nonumber \\ &=\int_{V_A}^{V_B}\dfrac{nRT_A}{V}dV\nonumber \\ &=nRT_A \log{\dfrac{V_B}{V_A}} \label{eq:1} \end{align}
また、熱力学第一法則より、$d^\prime Q=dU$であり,この微小量をAからBまで足し合わせると,$Q_{A\to B}=W_{A\to B}$なので、
\begin{align} Q_{A\to B}=W_{A\to B}=nRT_A \log{\dfrac{V_B}{V_A}} \label{eq:2} \end{align}

状態B→C:断熱膨張

断熱変化なので、$Q_{B\to C}=0$です。では、仕事を計算しましょう。今回は体積も、圧力も温度も固定されていないので、\eqref{eq:1}のようには計算できません。ところで、断熱変化ではポアソンの法則より比熱比$\gamma$を用いて、
\begin{align} pV^\gamma&=一定 \label{eq:3}\\ \end{align}
が成り立ちます。ここで、\eqref{eq:3}式が定数$C$に等しいとき、
\begin{align} p=\dfrac{C}{V^\gamma}\label{eq:4} \end{align}
とすることができます。よって、
\begin{align} W_{B\to C} &=\int_{V_B}^{V_C}pdV\nonumber \\ &=C \int_{V_B}^{V_C}V^{-\gamma}dV\nonumber \\ &=\left. C \dfrac{V^{-\gamma+1}}{1-\gamma} \right|^{V_C}_{V_B}\nonumber \\ &=\dfrac{C}{\gamma-1}\left(V_B^{-\gamma+1}-V_C^{-\gamma+1}\right) \label{eq:5} \end{align}
ここで、定数$C$をもう少し具体的に決めてあげたいわけですが、この変化の途中,さらには始点終点では任意の点で\eqref{eq:4}式が成り立つので、
\begin{align} C=p_BV_B^\gamma=p_CV_C^\gamma \label{eq:6} \end{align}
\eqref{eq:6}式を\eqref{eq:5}式に代入すると仕事が求められます。まとめると、
\begin{align} W_{B\to C}&=\dfrac{1}{\gamma-1}\left(p_BV_B-p_CV_C\right)\label{eq:7}\\ Q_{B\to C}&=0\label{eq:8} \end{align}

状態C→D:等温圧縮

これは等温膨張と同じように計算できて、\eqref{eq:2}式で$V_A\to V_C,V_B\to V_D,T_A\to T_C$と置き換えると、
\begin{align} W_{C\to D}=Q_{C\to D}=nRT_C \log{\dfrac{V_D}{V_C}} \lt 0\label{eq:9} \end{align}



状態D→A:断熱圧縮

これも断熱膨張と同様に計算できて、Bの状態量をDの状態量に、Cの状態量をAの状態量に置き換えると、
\begin{align} W_{D\to A}&=\dfrac{1}{\gamma-1}\left(p_DV_D-p_AV_A\right) \label{eq:10}\\ Q_{D\to A}&=0\label{eq:11} \end{align}

1サイクルで吸収した熱と仕事をまとめる

\eqref{eq:2},\eqref{eq:7},\eqref{eq:8},\eqref{eq:9},\eqref{eq:10},\eqref{eq:11}式をまとめて、系がおこなった仕事$W$と吸収した熱$Q$(放出した熱は除く)は、
\begin{align} W&=nR\left\{T_A\log{\dfrac{V_B}{V_A}+T_C\log{\dfrac{V_D}{V_C}}}\right\}\nonumber \\&+\dfrac{1}{\gamma-1}(p_BV_B+p_DV_D-p_AV_A-p_CV_C)\nonumber\\ Q&=nRT_A \log{\dfrac{V_B}{V_A}} \label{eq:12} \end{align}
とできます。対数の中身(真数)が1より大きいときだけ正で、$V_A\to V_B$では膨張しているのでこれが正だといえます。

次に、$W$について,状態A→B,状態C→Dは等温変化なので、$T_A=T_B,T_C=T_D$となります。よって、ボイルの法則より$p_AV_A=p_BV_B,p_CV_C=p_DV_D$が導けるので、二つ目の括弧の中身は0となり、
\begin{align} W=nR\left\{T_A\log{\dfrac{V_B}{V_A}+T_C\log{\dfrac{V_D}{V_C}}}\right\} \label{eq:13} \end{align}
さらにもう一度、断熱膨張・断熱圧縮に関してポアソンの法則を用いれば、
\begin{align} p_BV_B^\gamma=p_CV_C^\gamma\\ p_DV_D^\gamma=p_AV_A^\gamma \end{align}
これと、先ほど用いた$p_AV_A=p_BV_B,p_CV_C=p_DV_D$を組み合わせれば少し複雑ですが、
\begin{align} \dfrac{V_B}{V_A}=\dfrac{V_C}{V_D} \end{align}
なる関係が導けます。これを用いて\eqref{eq:13}式を書きなおすと、
\begin{align} W=nR(T_A-T_C)\log{\dfrac{V_B}{V_A}} \label{eq:17} \end{align}
\eqref{eq:12},\eqref{eq:17}式よりこのサイクルの熱効率$\eta$は、
\begin{align} \eta&=\dfrac{W}{Q}\nonumber\\ &=\dfrac{T_A-T_C}{T_A} \end{align}
となります。ただし,$Q$は吸収した熱だけを考えていることを気を付けてください。もし,放出した熱まで含めてしまうと,熱力学第一法則より,サイクル1周で内部エネルギー同じ値に戻ってくるので,$Q$と$W$は等しくなってしまい,熱効率が1になってしまいます...はここで、$T_A$というのは高熱源の温度、$T_C$は低熱源の温度なので、
\begin{align} \eta=\dfrac{T_{\text{高熱源}}-T_{\text{低熱源}}}{T_{\text{高熱源}}} \end{align}
ということになります。ちなみにこれが熱機関で得られる最も良い効率です。このように最も効率の良いサイクルが可逆機関であり、理想効率は高熱源と低熱源の温度のみで決定されるということをカルノーの定理とよびます。カルノーの原理とも呼びますが、一応証明はされているので定理と呼んでいいと思います。以下で証明します。

カルノーの定理の証明をわかりやすく

$C_1$:熱源から$Q_1\gt 0$の熱を吸収し低熱源に$Q_2\gt 0$の熱を放出するサイクル

$C_2$:高熱源から$Q^\prime_1\gt 0$の熱を吸収し低熱源に$Q_2^\prime(=Q_2\gt 0)$の熱を放出するカルノーサイクル

$\bar{C_2}:C_2$の逆サイクル

というようなサイクルを考えます。$\eta$を$C_1$の効率、$\eta^\prime$を$C_2$の効率とします。さらに、今考えている熱量はすべて正としましょう。いま、$Q^\prime_2=Q_2$としているのはちゃんと理由があります。$C_1$と$\bar{C_2}$を組み合わせると、合計として低熱源との熱のやり取りが0になります。


このとき、全体としては高熱源から$Q_1$の熱を吸収し、外部に仕事をし、$Q^\prime_1$の熱を高熱源に戻すということをしています。つまり、$Q_1-Q^\prime_1$の熱を高熱源から受け取って外部への仕事に変えるサイクルになっています。


これがもし、$Q_1-Q^\prime_1\gt 0$なら、一つの熱源から熱を受け取って他に変化を残さずに仕事に変えるというサイクルになり、トムソンの原理に反します。よって、
\begin{align} Q_1-Q^\prime_1&\leq 0\nonumber \\ \nonumber \\ 0\lt Q_1&\leq Q^\prime_1\nonumber \\ \nonumber \\ 0\lt \dfrac{Q_1}{Q_2}&\leq \dfrac{Q^\prime_1}{Q^\prime_2}\ \ (\because Q^\prime_2=Q_2\gt 0)\nonumber \\ \nonumber \\ \dfrac{Q^\prime_2}{Q^\prime_1}&\leq \dfrac{Q_2}{Q_1}\nonumber \\ \nonumber \\ -\dfrac{Q^\prime_2}{Q^\prime_1}&\geq -\dfrac{Q_2}{Q_1}\nonumber \\ \nonumber \\ 1-\dfrac{Q^\prime_2}{Q^\prime_1}&\geq 1-\dfrac{Q_2}{Q_1}\nonumber\\ \nonumber \\ \dfrac{Q^\prime_1-Q^\prime_2}{Q^\prime_1}&\geq \dfrac{Q_1-Q_2}{Q_1}\nonumber \\ \nonumber \\ \eta^\prime &\geq \eta \end{align}
ここで、$Q_2=Q^\prime_2$なので,等号が成り立つときは$Q_1=Q^\prime_1$となり、$C_1,C_2$のサイクルが同じものになります。つまり、等号成立は$C_1$が可逆のときのみです。



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