熱力学⑧ クラウジウスの不等式
クラウジウスの不等式の証明をわかりやすく
クラウジウスの不等式を証明してみます。前回証明したカルノーの定理を用います。クラウジウスの不等式の意味
クラウジウスの不等式
$N$個の熱源からなるサイクルについて,$i$番目の熱源から吸収する熱を$Q_i$(放出する場合は$Q_i\lt 0$)として
\begin{align}
\sum_{i=1}^{N}\dfrac{Q_i}{T}\leq 0 \label{eq:1}
\end{align}
過程が二つ(N=2)の場合のクラウジウス不等式の導出
簡単にクラウジウスの不等式を示してみます。たとえば、$N=2$について示します。カルノーの定理をつかってみる
カルノーサイクルを考える
高熱源(温度$T_1$)から熱量$Q_1$をうけとり,低熱源(温度$T_2$)から熱量$Q_2$を放出するサイクルを考えます。カルノーの定理をもちいる
あらゆる熱機関の効率$\eta^\prime$は,高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$について\begin{align}
\eta^\prime\leq \dfrac{T_1-T_2}{T_1} \label{eq:carnot}
\end{align}
となります。ただし,等号成立はカルノーサイクルの場合のみです。つまり,熱効率が最大となるのはカルノーサイクルということになります。ところで,今考えているサイクルでは高温熱源から吸収する熱量を$Q_1$,低温熱源に放出する熱量を$Q_2$とすると,
\begin{align}
\eta^\prime=\dfrac{Q_1-Q_2}{Q_1}
\end{align}
です。これを\eqref{eq:carnot}に代入すると,
\begin{align}
\dfrac{Q_1-Q_2}{Q_1}&\leq \dfrac{T_1-T_2}{T_1}\nonumber
\end{align}
となります。これを整理していきましょう。
\begin{align}
1-\dfrac{Q_2}{Q_1}&\leq 1-\dfrac{T_2}{T_1}\nonumber \\
\dfrac{Q_2}{Q_1}&\geq \dfrac{T_2}{T_1}\nonumber \\
\dfrac{Q_2}{T_2}&\geq \dfrac{Q_1}{T_1}\nonumber \\
\dfrac{Q_1}{T_1}-\dfrac{Q_2}{T_2}&\leq 0
\end{align}
熱量を吸収するときを正におきなおす
さて、$Q_1,Q_2$はそれぞれ吸収する熱、放出する熱としていたので、ここですべて吸収する熱に表記を統一することにします。つまり、$Q_1$はそのままで、$Q_2\to -Q_2$と置き換えて、\begin{align}
\dfrac{Q_1}{T_1}+\dfrac{Q_2}{T_1}\leq 0
\end{align}
これが\eqref{eq:1}式で$N=2$とした場合の式が得られました。
過程を微細化して連続とみなす
ところで、熱のやりとりをもっと微細化して,連続的な変化に直していきましょう。つまり,$N\to \infty$であり,$Q_i$を微小な熱量吸収$d^\prime Q$になおします。\eqref{eq:1}式は、\begin{align}
\oint \dfrac{d^\prime Q}{T}\leq 0
\end{align}
となります。(サイクルで元に戻ってくるので周回積分で表しています。)これが次回以降とても重要になってきます。