量子力学⑰ スピンとブラケット記法(シュテルン・ゲルラッハの実験) このエントリーをはてなブックマークに追加

スピンをブラケット記法で表す

せっかくブラケット記法という武器を手に入れたのでこれを用いてスピンの話をしてみましょう。

シュテルン・ゲルラッハの実験結果を考える

銀原子を考えます。銀原子は原子番号が47でK,L,M,N殻にはそれぞれ2,8,18,18の電子が詰まっていて最外殻に1つの電子があります。

つまり、銀原子は最外殻の電子を除けば対称的です。つまり、最外殻の電子の性質に大きく原子全体の性質が左右されます。

古典電磁気学的な磁気モーメントを考える

$E-B$対応の立場からは磁気モーメントというのをループ電流として考えることができます。この電流の源を最外殻電子だと考えましょう。おそらく回転の向きというのは古典的な範疇ではランダムなはずです。

しかし、この銀原子を加速して、不均一磁場を加えたところスクリーンに現れた原子の軌道は連続にならず、2つの軌道に分かれるという結果が得られました。

あまり詳しくしゃべりませんでしたが、この実験をもとにスピンという電子の自転に相当するようなものが考えられました。

スピンの向きを設定する

たとえば、1次元の範疇で考えることにします。たとえば、準位が2つに分かれたのですから、上向きと下向きの名をつけて考えることにします。

主にスピンは$z$軸方向を基準に決められることが多いです。そこで、上向きスピンの状態を$\ket{\uparrow}$,下向きスピンの状態を$\ket{\downarrow}$と表すことにします。そして、これらが固有ケットになることにします。このスピンの角運動量の大きさは最小単位となりそうですが、不確定性原理から考えれば、$\dfrac{\hbar}{2}$とかけます。

上向きの電子を観測したときに$\dfrac{\hbar}{2}$,下向きの電子を観測したときに$-\dfrac{\hbar}{2}$と観測結果が得られるようにするには、$z$軸方向に測るスピン運動量演算子$\hat{S}_z$は、
\begin{align} \hat{S}_z\ket{\uparrow}&=\dfrac{\hbar}{2}\ket{\uparrow}\label{eq:1}\\ \hat{S}_z\ket{\downarrow}&=-\dfrac{\hbar}{2}\ket{\downarrow} \label{eq:2} \end{align}
という性質があると考えられます。

スピンを行列として考える



\begin{align} \ket{\uparrow}&=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}\label{eq:3}\\ \ket{\downarrow}&=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}\label{eq:4} \end{align}
とおくと、
\begin{align} \hat{S}_z&=\dfrac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}1 & 0\\ 0& -1\end{pmatrix} \label{eq:5} \end{align}
とすれば\eqref{eq:1},\eqref{eq:2}式をうまく表現できそうです。

完備性が成り立つことの確認

パウリのスピン行列の復習

たとえば、パウリ行列の一つとして
\begin{align*} \sigma_z=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix} \end{align*}
というものがありました。これはまさに\eqref{eq:5}式の行列部分そのもので、
\begin{align*} \hat{S}_z=\dfrac{\hbar}{2}\sigma_z \end{align*}
となります。

パウリ行列を用いてスピン演算子を表す

以上のようにスピン行列を用いてスピン演算子を決めればよさそうです。
\begin{align*} \hat{S}_x &=\dfrac{\hbar}{2}\sigma_x\\ &=\dfrac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}0 & 1\\ 1 & 0\end{pmatrix}\\ \hat{S}_y &=\dfrac{\hbar}{2}\sigma_y\\ &=\dfrac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}0 & -i\\ i & 0\end{pmatrix} \end{align*}
と決めることができます。

ブラケットを用いて演算子を表す

\eqref{eq:3},\eqref{eq:4}式を用いれば、\eqref{eq:5}式は、
\begin{align*} &\dfrac{\hbar}{2}\ket{\uparrow}\bra{\uparrow}-\dfrac{\hbar}{2}\ket{\downarrow}\bra{\downarrow}\\ &=\dfrac{\hbar}{2}\begin{pmatrix}1\\0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1& 0\end{pmatrix}-\dfrac{\hbar}{2}\begin{pmatrix} 0\\1\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0& 1\end{pmatrix}\\ &=\dfrac{\hbar}{2}\begin{pmatrix} 1& 0\\ 0 & -1\end{pmatrix}\\ &=\hat{S}_z \end{align*}
とできるでしょう。これに倣えば、
\begin{align} \hat{S}_x&=\dfrac{\hbar}{2}\left(\ket{\uparrow}\bra{\downarrow}+\ket{\downarrow}\bra{\uparrow}\right) \label{eq:6}\\ \hat{S}_y&=\dfrac{i\hbar}{2}\left(\ket{\downarrow}\bra{\uparrow}-\ket{\uparrow}\bra{\downarrow}\right) \label{eq:7} \end{align}
と表せることになります。この表記を用いれば、
\begin{align*} \hat{S}_z&=\begin{pmatrix}\braket{\uparrow|\hat{S}_z|\uparrow} & \braket{\uparrow|\hat{S}_z|\downarrow}\\ \braket{\downarrow|\hat{S}_z|\uparrow} & \braket{\downarrow|\hat{S}_z|\downarrow}\end{pmatrix} \end{align*}
というように固有ケットを用いて行列表示を求めることもできます、

昇降演算子とは?その性質

ここで昇降演算子を以下のように定義します。
\begin{align*} \hat{S}_+&=\hat{S}_x+i\hat{S}_y\\ \hat{S}_-&=\hat{S}_x-i\hat{S}_y \end{align*}
これらを\eqref{eq:6},\eqref{eq:7}式を用いて具体的に計算すると
\begin{align*} \hat{S}_+&=\hbar\ket{\uparrow}\bra{\downarrow}\\ \hat{S}_-&=\hbar\ket{\downarrow}\bra{\uparrow} \end{align*}
これらの固有ケットが規格直交しているときには、
\begin{align*} \hat{S}_+\ket{\uparrow}&=\boldsymbol{0}\\ \hat{S}_+\ket{\downarrow}&=\hbar\ket{\uparrow}\\ \hat{S}_-\ket{\uparrow}&=\hbar \ket{\downarrow}\\ \hat{S}_-\ket{\downarrow}&=\boldsymbol{0} \end{align*}
というように一つ準位を変化させるような演算子になります。



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