量子力学⑱ 摂動:時間を含まない・縮退がない場合
縮退がなく時間を含まない場合の摂動
シュレディンガー方程式を解くためにはエネルギー固有値がわかる必要があり、必ずしも厳密買いが得られるとは限りません。縮退とはなにか?摂動を使える条件
縮退とは?誤解を恐れずに書くと,同じエネルギー固有値を持つような状態が複数存在している場合のことです。さて,この縮退がないことと時間を含まないという仮定をもとに話を進めます。摂動とは何か?
摂動というのは厳密に解けている状態から微小な変化があった時にエネルギー固有値・固有ケットにどのような変化が起こるのか?ということを知りたいわけです。以下,この微小な変化が加わる前の状態を非摂動状態と呼ぶことにします。以下のシュレディンガー方程式を考えます。この方程式は厳密に解けているものとしましょう。
\begin{align}
H_0\ket{\psi_n^{(0)}}=E^{(0)}_n\ket{\psi_n^{(0)}} \label{eq:1}
\end{align}
さて,ここでハミルトニアンに微小な変化があるものとしましょう。つまり,
\begin{align*}
H=H_0+V
\end{align*}
という新しいハミルトニアンを考えます。さてここで新たなシュレディンガー方程式を
\begin{align}
\left(H_0+\lambda V\right)\ket{\psi_n}=E_n\ket{\psi_n} \label{eq:2}
\end{align}
として解きましょう。ここで,新しく導入した$\lambda$は摂動の強さを表すパラメータで,最終的にはこれを1として考えます。ただ,一旦これをパラメータとして導入しましょう。ここで,エネルギー固有値と固有ケットを
\begin{align*}
\ket{\psi_n}&=\ket{\psi_n^{(0)}}+\lambda\ket{\psi_n^{(1)}}+\lambda^2\ket{\psi_n^{(2)}}+\cdots\\
E_n&=E_n^{(0)}+\lambda E_n^{(1)}+\lambda^2 E_n^{(2)}+\cdots
\end{align*}
という形に展開しましょう。これらを\eqref{eq:2}に代入します.
\begin{align*}
(H_0+\lambda V)(\ket{\psi_n^{(0)}}+\lambda \ket{\psi_n^{(1)}}+\lambda^2\ket{\psi_n^{(2)}}+\cdots)=(E_n^{(0)}+\lambda E_n^{(1)}+\lambda^2 E_n^{(2)}+\cdots)(\ket{\psi_n^{(0)}}+\lambda \ket{\psi_n^{(1)}}+\lambda^2\ket{\psi_n^{(2)}}+\cdots)
\end{align*}
さて,この式を全部左辺に移項してみます。さらに$\lambda$の次数別にまとめます。
\begin{align}
(H_0-E_n^{(0)})\ket{\psi_n^{(0)}}+\lambda\left\{(H_0-E_n^{(0)})\ket{\psi_n^{(1)}}+(V-E_n^{(1)})\ket{\psi_n^{(0)}}\right\}+\lambda^2\left\{(H_0-E_n^{(0)})\ket{\psi_n^{(2)}}+(V-E_n^{(1)})\ket{\psi_n^{(1)}}+E_n^{(2)}\ket{\psi_n^{(0)}}\right\}+\cdots=0 \label{eq:3}
\end{align}
この方程式が$\lambda$に依存せずに成り立つためには各次数で0になっている必要があります。
0次の部分について
\begin{align}
(H_0-E_0^{(0)})\ket{\psi_n^{(0)}}=0 \label{eq:4}
\end{align}
これは非摂動系のシュレディンガー方程式\eqref{eq:1}と同じことです。
1次の部分について
\begin{align}
(H_0-E^{(0)}_n)\ket{\psi_n^{(1)}}+(V-E_n^{(1)})\ket{\psi_n^{(0)}}=0 \label{eq:5}
\end{align}
となります。ここで大事なことは摂動系のケットを非摂動系のケットで展開できると考えることです。固有ケットが完全性をもっていると,
\begin{align}
\ket{\psi^{(1)}_n}&=\sum_k \ket{\psi_k^{(0)}}\braket{\psi_k^{(0)}|\psi^{(1)}_n} \nonumber \\
&=\sum_k c_k\ket{\psi_k^{(0)}}
\end{align}
とできるでしょう。この式を\eqref{eq:5}に代入します。$k=n$のときだけ和の記号から出して別で考えます。
\begin{align*}
\sum_{k\ne n} (H_0-E^{(0)}_n)c_k\ket{\psi_k^{(0)}}+c_n(H_0-E_n^{(0)})\ket{\psi_n^{(0)}}+(V-E_n^{(1)})\ket{\psi_n^{(0)}}=0
\end{align*}
この二つ目の括弧は非摂動系のシュレディンガー方程式\eqref{eq:4}と同じ形で,0になります。
\begin{align}
\sum_{k\ne n} (H_0-E^{(0)}_n)c_k\ket{\psi_k^{(0)}}+(V-E_n^{(1)})\ket{\psi_n^{(0)}}=0 \label{eq:7}
\end{align}
ただ,この一番左にある括弧はハミルトニアンが$\ket{\psi_k^{(0)}}$にかかっているので,単純にエネルギー固有値$E_k^{(0)}$が出てくるでしょう。
\begin{align}
\sum_{k\ne n}c_k(E_k^{(0)}-E_n^{(0)})\ket{\psi_k^{(0)}}+(V-E_n^{(1)})\ket{\psi_n^{(0)}}=0 \label{eq:8}
\end{align}
エネルギー固有値が求まる
\eqref{eq:8}に左から$\bra{\psi^{(0)}_n}$を作用させます。この非摂動ケットが異なる添え字に対して直交していると考えれば,左の和の記号を取っている部分は全部消えます。つまり,\begin{align*}
\bra{\psi_n^{(0)}}(V-E^{(1)}_n)\ket{\psi_n^{(0)}}=0
\end{align*}
$V$は演算子なのでブラケットではさんだままにしておきますが,$E_n^{(1)}$はただのスカラーなので入れ替え可能です。よって,この左辺は,
\begin{align*}
\braket{\psi_n^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}}-E_n^{(1)}\braket{\psi_n^{(0)}|\psi_n^{(0)}}=\braket{\psi_n^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}}-E_n^{(1)}=0
\end{align*}
つまり,摂動系のエネルギーの1次の項は
\begin{align}
E_n^{(1)}=\braket{\psi_n^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}} \label{eq:9}
\end{align}
となります。
固有ケットを求める
\eqref{eq:8}に\eqref{eq:9}を代入します。\begin{align}
\sum_{k\ne n}c_k(E_k^{(0)}-E_n^{(0)})\ket{\psi_k^{(0)}}+(V-\braket{\psi_n^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}})\ket{\psi_n^{(0)}}=0 \label{eq:17}
\end{align}
この辺々に左から$\bra{\psi_j^{(0)}}$($j\ne n$)を作用させて,直交性を加味すれば,
\begin{align}
c_j(E_j^{(0)}-E_n^{(0)})+\braket{\psi_j^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}}=0
\end{align}
となります。つまり,係数$c_j$が求まります。
\begin{align}
c_j=\dfrac{\braket{\psi_j^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}}}{E_n^{(0)}-E_j^{(0)}}
\end{align}
ただし,念押ししますが$j\ne n$です。$c_n$に関しての扱いはだいぶ怪しいです。規格化によって決めるとか,何も言わずに1として書いてあったりとか...
ここでは,$c_n(\lambda)\to 1(\lambda\to 0)$という条件を満たすものだ,という程度に言及をとどめておきます。
2次の場合
同じことを繰り返すだけなのですが,式がかなり煩雑になります。エネルギー固有値に関してのみ結果だけ示しておくと,\begin{align}
E_n^{(2)}=\sum_{k\ne n} \dfrac{|\braket{\psi_k^{(0)}|V|\psi_n^{(0)}}|^2}{E_n^{(0)}-E_k^{(0)}}
\end{align}
となります。繰り返しますが,これは縮退がないこと,時間に依存しないことがやはり前提にあります。