電磁気学⑤ 誘電体と分極 このエントリーをはてなブックマークに追加

電束密度と誘電体の関係・境界条件

誘電体とは導電性よりも誘電性が有利な物質です.つまり,電場を加えれば電流は流れませんが,電荷分布に偏りが生じます.

電気分極と電気感受率の定義

電気分極(誘電分極)
単位体積当たりの電気双極子モーメントを電気分極(誘電分極)とよぶ。
さて電荷分布に偏りが生じるということを具体的に説明します.当然誘電体も原子からなっていますが,原子核は電子よりも十分重いので,原子核が元の位置にとどまり電子のみが電場に反応して少し移動すると考えてよいでしょう。

つまり,これは電気双極子ができると考えてもよさそうです.各電気双極子に1,2,3,...とラベルを付けて,その電気双極子モーメントを$\boldsymbol{p_i}$としましょう.そのとき,
\begin{align} \boldsymbol{P}\stackrel{def}{=}\dfrac{1}{V}\sum_i \boldsymbol{p_i} \label{eq:1} \end{align}
という式を定義します.この$\boldsymbol{P}$を電気分極といいます.その意味で、単位体積当たりの電気双極子モーメントだといえます.

常誘電体とその電場との関係

電場がかかっていないときに電気分極が$\boldsymbol{P}=\boldsymbol{0}$となるような誘電体を常誘電体といいます.ちなみに$\boldsymbol{E}$がある程度小さい範囲では,$\boldsymbol{P}$は電場に比例します.真空の誘電率$\varepsilon_0$を用いて
\begin{align} \boldsymbol{P}=\varepsilon_0\chi_e\boldsymbol{E} \label{eq:2} \end{align}
という関係を満たすように$\chi_e$を定めます.これを電気感受率といいます.

強誘電体がもつ自発分極の定義

先ほど電場外では分極しない常誘電体を定義しましたが,電場がなくても分極起こす誘電体があります.これを強誘電体といい,電場がないときの分極を自発分極といいます.

電束密度と電気分極の関係

電束密度と電気分極には以下のような関係があります.
\begin{align} \boldsymbol{D}=\varepsilon_0\boldsymbol{E}+\boldsymbol{P} \label{eq:3} \end{align}
\eqref{eq:2}式を利用すれば,
\begin{align} \boldsymbol{D}&=\varepsilon_0\boldsymbol{E}+\varepsilon_0\chi_e\boldsymbol{E}\nonumber\\ &=\varepsilon_0\left(1+\chi_e\right)\boldsymbol{E} \end{align}
となります.つまり,$1+\chi_e$がいわゆる比誘電率にあたるわけです.

電場・電束密度の境界条件と分極電荷

真電荷・分極電荷の違い

コンデンサに電圧を加えておくと,極板に電荷が蓄えられますが向かいあう誘電体にも電荷がたまります.これを分極電荷といいます.これに対してもともとある電荷を真電荷,または外部電荷といいます.これを踏まえたうえで以下の式をもう一度考えてみましょう.
\begin{align} \nabla\cdot \boldsymbol{D}=\rho \label{eq:005} \end{align}
この右辺は電荷密度でしたが,これは真電荷密度です.なぜ真電荷密度になるのかを考えてみましょう。

電気分極の物理的意味から発散を考える

電気分極の発散$\nabla\cdot\boldsymbol{P}$を考えます。電気分極は 単位体積当たりの電気双極子モーメントでした。

ところで、発散というのは湧き出しを表していたので、電気分極の発散というのは単位体積あたりの電気双極子モーメントの湧き出しを表しています。ここで、電気双極子モーメントというのは負電荷から正電荷に向かうベクトルに電荷の大きさを掛け合わせたものです。

つまり、双極子モーメントベクトルは負の分極電荷から伸びているので、電気分極の発散は負の分極電荷密度とわかります。つまり、以下のような関係がわかります。
分極電荷密度
分極電荷密度$\rho^\prime$は
\begin{align} \rho^\prime=-\nabla\cdot\boldsymbol{P} \label{eq:006} \end{align}
と表される。
よって、\eqref{eq:3}の発散は、
\begin{align*} \nabla\cdot \boldsymbol{D}&=\nabla\cdot (\varepsilon_0 \boldsymbol{E}+\boldsymbol{P})\\ &=\varepsilon_0 \nabla\cdot\boldsymbol{E}+\nabla\cdot \boldsymbol{P}\\ &=\varepsilon_0\boldsymbol{E}-\rho^\prime \end{align*}
\eqref{eq:005}と比較すれば、
\begin{align*} \varepsilon_0 \nabla\cdot \boldsymbol{E}-\rho^\prime&=\rho \nonumber \\ \nabla\cdot\boldsymbol{E}&=\dfrac{\rho+\rho^\prime}{\varepsilon_0} \end{align*}
これで、電場が$\rho$,$\rho^\prime$で作られることが分かったわけですが、$\rho^\prime$は分極電荷密度だったので、$\rho$は真電荷密度だと考えることができます。

これを用いて境界条件を導出します.誘電体の境界面上での積分を考えます.

電場・電束密度の誘電体境界面での境界条件

誘電体の境界条件
境界面では、電束密度の境界に垂直な成分、電場の境界に平行な成分が保存する。ただし、境界面に真電荷が存在せず、磁束密度の時間変化がない場合に限る。
以下、誘電体1,2を考えます。

境界に垂直な成分を考える

境界に垂直な成分について考えます.\eqref{eq:005}の辺々を体積分します.いつものように左辺はガウスの発散定理で面積分にかわります.積分する領域を非常に平たく薄い円柱すると,側面の積分は無視できます.

積分領域の円柱の底面積を$s$とすれば,積分結果は,誘電体1,2の境界($s$が表す面)に垂直な成分を$D_1$,$D_2$として、
\begin{align*} (D_1-D_2)s \end{align*}
ただし,面に垂直な成分しか残っていないことに注意してください.さらに\eqref{eq:005}の右辺の体積分を計算したいのですが,誘電体の境界にあるのは分極電荷であって真電荷ではないので$\rho=0$となり,積分結果は0となります. すなわち,\eqref{eq:005}は
\begin{align*} (D_1-D_2)s=0 \end{align*}
つまり,$D_1=D_2$となり,誘電体の境界に垂直な電束密度成分は等しいことがわかります.

境界面に平行方向の成分

今回はマクスウェル方程式のファラデーの式を用いますが,磁場の時間変化はないとすれば,
\begin{align*} \nabla\times\boldsymbol{E}=0 \end{align*}
を用います.今電場を用いたいので辺々を面積分して左辺をストークスの定理で変えましょう.ところで,面積分するときの面を境界面に平行に細長くしましょう.このとき,左辺の線積分にかわった積分は細長い部分の結果のみかんがえればよさそうです.よって,境界に平行な電場を$E_1$,$E_2$として、
\begin{align*} (E_1-E_2)l=0 \end{align*}
つまり,$E_1=E_2$となります.今残っているのは面に平行な電場のみです.

実際のコンデンサの例

コンデンサ中に誘電率1,2を挿入します.それぞれ誘電率を$\varepsilon_1,\varepsilon_2$とします. 誘電体の境界に垂直な方向には電束密度が一定でした.つまり,誘電率$\varepsilon_1,\varepsilon_2$の誘電率1,2の電場$E_1,E_2$を考えて電束密度一定より,
\begin{align} \varepsilon_1E_1=\varepsilon_2E_2 \end{align}
これで誘電体を挟むと電場が変わってしまうことが示せました。



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