場の量子論⑬ ゲージ変換と共変微分 このエントリーをはてなブックマークに追加

共変微分とは

共変微分とは以下のような式を言います.
\begin{align} D_\mu\stackrel{def}{=}\partial_\mu+i\dfrac{q}{\hbar}A_\mu \label{eq:qft7.1} \end{align}


大域的ゲージ変換とは?位相変換の話

量子力学で扱っていた波動関数では位相のずれは観測結果に変化を及ぼさないのでした.というのは以下のようなことです.位相が定数\(\theta\)だけずれた,つまり波動関数が\(\psi\to e^{i\theta}\psi^\prime\)と変化したときには,その存在確率は,
\begin{align} \psi^\dagger \psi\to \psi^{\prime\dagger} e^{-i\theta}e^{i\theta}\psi^\prime=\psi^{\prime\dagger}\psi^\prime \end{align}
となります.つまり,波動関数全体にかかるような位相変化は特に物理的に意味のある量(今回でいうと存在確率)は保存されるのでした.

場の量子論で保存すべき量はなにか?ラグランジアン密度!

場の量子論で保存すべき量は何か考えます.位相変換が起こっても方程式が変わらなければ良いのですが,場の量子論で用いるのはもっぱら相対論的なオイラー・ラグランジュ方程式なのでこの方程式が変わらないためにはラグランジアンが保存されればよいでしょう.

というわけで自由場のラグランジアンを思い出してみましょう.以下はそれぞれ複素自由スカラー場,ベクトル場,ディラック場のラグランジアンです.
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}&=\dfrac{\hbar^2}{m}\partial_\mu\phi^* \partial^\mu\phi-mc^2\phi^{*}\phi \label{eq:qft6.7}\\ \mathcal{L}_{Vector}&=-\dfrac{1}{4\mu_0}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\\ \mathcal{L}_{Dirac}&=i\hbar c\bar{\psi}\gamma^\mu \partial_\mu \psi-mc^2\bar{\psi}\psi \label{eq:qft7.5} \end{align}
この中で,\eqref{eq:qft6.7}について考えましょう.\(\phi\to e^{i\theta}\phi\)と変換をしても,\(\theta\)が定数なので不変であることがわかります.

局所ゲージ変換の克服方法

\(\theta\)が定数でなく,時空の変数である場合\(\theta(x)\)の場合を考えましょう.このとき,複素スカラーラグランジアンを計算すると,
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}&\to\dfrac{\hbar^2}{m}\partial_\mu(e^{-i\theta(x)}\phi^*)\partial^\mu (e^{i\theta(x)}\phi)-mc^2e^{-i\theta(x)}\phi^*e^{i\theta(x)}\phi\\ &=\dfrac{\hbar^2}{m}e^{-i\theta(x)}\left\{\partial_\mu-i\partial_\mu \theta(x)\right\}\phi^*e^{i\theta(x)}\left\{\partial^\mu+i\partial^\mu \theta(x)\right\}\phi-mc^2\phi^*\phi\\ &=\dfrac{\hbar^2}{m}(\partial_\mu-i\partial_\mu\theta(x))\phi^*(\partial^\mu+i\partial^\mu\theta(x))\phi-mc^2\dfrac{m^2c^2}{\hbar^2}\phi^*\phi \label{eq:qft7.8} \end{align}
と変換されます.これはどう見ても形を保ってはいないですね.というわけでもともとのラグランジアン密度の式を見直す必要があります.

ベクトルポテンシャルのゲージ不変性に着目する

ベクトルポテンシャルとは,磁束密度\(\boldsymbol{B}\)に対して以下のような関係を持つものでした.
\begin{align} \boldsymbol{A}=\nabla\times \boldsymbol{B} \end{align}
古典電磁気学では\(\boldsymbol{B}\)が実測値でした.たとえば,ローレンツ力は磁束密度で表されました.というわけで,\(A\)の微分で磁束密度が表されるということは,\(A\)には回転をとれば消える不変性があります.たとえば,
\begin{align} \boldsymbol{A}\to \boldsymbol{A}-\nabla \theta \end{align}
と変換してみると,恒等式\(\nabla\times\nabla f=\boldsymbol{0}\)より,同じ磁束密度が得られることがわかります.さて,スカラーポテンシャルについても
\begin{align} \phi\to\phi+\dfrac{\partial \theta}{\partial t} \end{align}
これらをまとめてみると,\(A^\mu=\left(\frac{\phi}{c},\boldsymbol{A}\right)\)として,座標側に負号をつける\(\partial^\mu=\left(\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t},-\nabla\right)\)とすることにすれば,
\begin{align} A^\mu\to A^\mu+\partial^\mu \theta \label{eq:qft7.12} \end{align}
さて,この変換後の第二項が\eqref{eq:qft7.8}の変換後の微分項とそっくりですね.というわけで,もし,\eqref{eq:qft7.8}の変換で,微分項\(\partial^\mu\)を以下のように変えてみることにします.係数については後程.
\begin{align} \partial^\mu\to \partial^\mu+i\dfrac{q}{\hbar}A^\mu \end{align}
こうすると,ラグランジアンの局所的な変換は以下のような式になります.\eqref{eq:qft7.8}の微分項にこのゲージ場\(A^\mu\)を加えればOKです.ただ,\(\theta(x)\)はスカラー値関数なので係数の都合上,局所変換を\(e^{i\theta(x)}\to e^{i\frac{q}{\hbar}\theta(x)}\)と勝手に変えています.
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}\to \dfrac{\hbar^2}{m}\left\{\partial_\mu-i\dfrac{q}{\hbar}(A_\mu+\partial_\mu \theta(x))\right\}\phi^*\left\{\partial^\mu+i\dfrac{q}{\hbar}(A^\mu+\partial^\mu \theta(x))\right\}\phi-mc^2\phi^*\phi \label{eq:qft7.14} \end{align}
一つ目の括弧の虚数単位の前のがマイナスであることについて,これは実はもともと考えていたラグランジアン
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}=\dfrac{\hbar^2}{m}\partial_\mu\phi^*\partial^\mu\phi-mc^2\phi^*\phi \end{align}
この式は場\(\phi\)にだけ複素共役をとっていますが,実は微分も含めて複素共役なのです.ラグランジアンには実関数になるという要請が課されていたのでした.というのはラグランジアンを用いてハミルトニアン(=全エネルギー=実数)を定義するのでラグランジアンも実数である必要があります.ということを考えるともっと正確にいえば
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}=\dfrac{\hbar^2}{m}(\partial_\mu \phi)^*\partial^\mu \phi-mc^2\phi^*\phi \end{align}
ということになるでしょう.このために\eqref{eq:qft7.14}の一つ目の括弧の虚数単位の前が負になっています.さてあらためて\eqref{eq:qft7.14}に着目しましょう.
\begin{align*} \mathcal{L}_{C.Scalar}\to \dfrac{\hbar^2}{m}\left\{\partial_\mu-i\dfrac{q}{\hbar}(A_\mu+\partial_\mu \theta(x))\right\}\phi^*\left\{\partial^\mu+i\dfrac{q}{\hbar}(A^\mu+\partial^\mu \theta(x))\right\}\phi-mc^2\phi^*\phi \tag{\ref{eq:qft7.14}} \end{align*}
さて,先ほど示したゲージ変換
\begin{align*} A^\mu\to A^\mu+\partial^\mu\theta \tag{\ref{eq:qft7.12}} \end{align*}
を考えると,ゲージ変換されただけだと思えますよね.改めて変換の前後の式を書き下すと,
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}&=\dfrac{\hbar^2}{m}\left(\partial_\mu-i\frac{q}{\hbar}A_\mu\right)\phi^*\left(\partial^\mu+i\frac{q}{\hbar}A^\mu\right)\phi-mc^2\phi^*\phi \\ &\to \dfrac{\hbar^2}{m}\left\{\partial_\mu-i\dfrac{q}{\hbar}(A_\mu+\partial_\mu \theta(x))\right\}\phi^*\left\{\partial^\mu+i\dfrac{q}{\hbar}(A^\mu+\partial^\mu \theta(x))\right\}\phi-mc^2\phi^*\phi \tag{\ref{eq:qft7.14}} \end{align}
となります.そこで,微分の変換を行います.

共変微分の定義と直感的な理解

共変微分\(D_\mu\)を以下のように定義します.
\begin{align} D_\mu\stackrel{def}{=}\partial_\mu+i\frac{q}{\hbar}A_\mu \tag{\ref{eq:qft7.1}} \end{align}
この共変微分でラグランジアン密度中の微分項を置き換えることで不変量となります.
\begin{align} \mathcal{L}_{C.Scalar}=\dfrac{\hbar^2}{m}(D_\mu\phi)^*(D^\mu\phi)-mc^2\phi^*\phi \end{align}
これで解決です.この共変微分というのは一般相対性理論と共通した考え方で,空間が曲がっているときにつかうものです.空間が曲がっていると,普通のユークリッド空間で定義した微分では通用しなくなります.よって,この式が現れます.

電磁ポテンシャルにつけた係数

係数は次元をそろえるためにつけました.たとえば,\eqref{eq:qft7.1}について辺々に\(i\hbar\)をかけます.説明のためにめちゃくちゃな表記をしますが
\begin{align*} i\hbar D_\mu&=i\hbar\partial_\mu-qA_\mu\\ &=\left(\dfrac{1}{c}i\hbar \dfrac{\partial}{\partial t},i\hbar\nabla\right)-\left(\dfrac{1}{c}q\phi,-q\boldsymbol{A}\right)\\ &=\left(\dfrac{1}{c}\left(i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}-q\phi\right),-(-i\hbar\nabla)+q\boldsymbol{A}\right) \end{align*}
ここで,演算子の関係\(\hat{E}=i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}\),\(\hat{\boldsymbol{p}}=-i\hbar\nabla\)を考えると,
\begin{align} i\hbar D_\mu=\left(\dfrac{1}{c}(\hat{E}-q\phi),-\hat{\boldsymbol{p}}+q\boldsymbol{A}\right) \end{align}
となり,荷電粒子のハミルトニアンを思い出すと,この次元があっていることが確かめられるでしょう.

共変微分からわかる相互作用

共変微分を導入したことで新たな項が見えてきます.ただし,スカラー場でこれをやるのは大変なので,ディラック場で紹介したいと思います.
\begin{align} \mathcal{L}_{Dirac}^\prime=i\hbar c\bar{\psi}\gamma^\mu D_\mu\psi-mc^2\bar{\psi}\psi \end{align}
ここで,共変微分の式を代入してやると
\begin{align} \mathcal{L}_{Dirac}^\prime=i\hbar c\bar{\psi}\gamma^\mu\partial_\mu\psi-mc^2\bar{\psi}\psi-qc\bar{\psi}\gamma^\mu A_\mu\psi \end{align}
となります.さて,最初に示した式
\begin{align} \mathcal{L}_{Dirac}=i\hbar c\bar{\psi}\gamma^\mu\partial_\mu\psi-mc^2\bar{\psi}\psi \tag{\ref{eq:qft7.5}} \end{align}
この二つの式を比べると,最後の項\(qc\bar{\psi}\gamma^\mu A_\mu\psi\)が異なっていることがわかります.これはゲージ場\(A^\mu\)があることによって生じる項なので相互作用を表す項です.

共変微分で実現できたことまとめ

共変微分のよって相互作用の記述が簡単にできるようになりました.また,ユニタリ変換\(U=e^{i\theta(x)}\)について
\begin{align} D_\mu(A^\mu)(U\phi)=UD_\mu(A^\mu+\partial_\mu)\phi \end{align}
というように入れ替えができました.このとき,共変微分はゲージ場が変わったことを受けて変化しています.



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