力学④ 慣性モーメント このエントリーをはてなブックマークに追加

慣性モーメントとは?

今回は角度の話に関連して慣性モーメントを紹介します。



慣性モーメントとは物体の回転させにくさ、回転運動している物体の回転を止めにくさ、だとかよく言われます。角度に関連した式を立てたいときには慣性モーメントを用います。

慣性モーメントの定義とは?

慣性モーメント
$z$軸周りの慣性モーメントを、$(x,y)$の点に微小質量$\Delta m$を持つ質点があると考えて、
\begin{align*} I=\displaystyle \sum_{(x,y)\in A}\Delta m(x,y)(x^2+y^2)=\displaystyle \sum_{(x,y)\in A}\Delta m(x,y)r^2 \end{align*}
ただし、$r=\sqrt{x^2+y^2}$としました。
特に、連続な大きさを持つときはこの式を積分で置き換えればよいです。 わかりやすい例、例えば質点を考えましょう。

質点と剛体の扱い方の違い

質点とは大きさを無視した一点に質量が集中している点のことです。質点のほうが考えるのが簡単なので、質量$m$の質点が$(x,y,z)$にあるときを考えます。

慣性モーメントは回転のことを考えているので、回転軸を考える必要があります。原点を通り$xy$平面に垂直な軸($z$軸)まわりの質点の慣性モーメントは,
\begin{align*}m(x^{2}+y^{2})\end{align*}
となります。

ここからは質点ではなく大きさを持った物体について考えてみようと思います。

大きさがある場合の積分を用いた慣性モーメント

大きさを持つ物体の慣性モーメントの計算
単位面積あたりの質量が$\sigma(x,y)$の物体を考えると、$z$軸まわりの慣性モーメントは
\begin{align*} I=\iint_{\text{全範囲}}\sigma(x,y)(x^2+y^2)dxdy \end{align*}
となります。$x,y$の2次元の積分を行うという意味でインテグラルを2個つけていますが省略して一個のインテグラルで済ますこともあります。

ここでは、先ほどの慣性モーメントの式で、$(x,y)$の点に存在する質量を$\Delta m(x,y)=\sigma(x,y)dx dy$として、和のシグマを積分に変えた式になっています。$dxdy$というのが微小面積なので、面密度とかけ合わせれば、確かに微小な質量が表せそうですね。

例題 半径rの原点を中心とする一様な質量Mの円盤について原点を通り、円盤に垂直な軸まわりの慣性モーメントは?

一様なと書かれていれば、任意の点で密度は一定と考えることができます。

①単位面積当たりの質量を考える

円盤の面積は$\pi r^{2}$なので
\begin{align*}\dfrac{M}{\pi r^{2}}\end{align*}

②円盤の範囲内で積分する

\begin{align*}\displaystyle \iint_{\text{半径}r\text{の円内部}} \dfrac{M}{\pi r^{2}}(x^{2}+y^{2})dxdy\end{align*}
ここで、先ほどの質点の話でいえば、$\dfrac{M}{\pi r^{2}}dxdy$が質量$\Delta m$に値します。ちなみにこの積分は、円の範囲で積分するので、
\begin{align*}\displaystyle \int_{0}^{r} \dfrac{M}{\pi r^{2}}R^{2}・2\pi R dR\end{align*}
という式に変えることができます。この式の意味を考えてみましょう。

いま、積分範囲が円の内部なので、置換積分をしたほうが計算しやすそうです。以下、2通りの考えかたで変換の意味を考えてみます。

微小面積の大きさをどう表すか?

$R$~$R+dR$の微小面積を表したいと思います。 下の図を見てください(雑ですみません...)
黒い線が円板です. 赤と青で囲まれた領域の面積はどう表されるでしょうか。赤い円は半径$R$の円、青い円は半径$R+dR$の円です。
方法1 地道に計算してみる
赤円と青円の面積の差が微小面積を表します。つまり、以下のようになります。
\begin{align*}\pi(R+dR)^{2}-\pi R^{2}=2\pi R dR+\pi (dR)^{2}\end{align*}
ここで$dR$は微小量なので,$dR$に比べて、$(dR)^2$は非常に小さくなります。よって、$(dR)^2$は無視して
\begin{align*} \pi(R+dR)^2-\pi R^2\approx 2\pi R \ dR \end{align*}
つまり面積差は $2\pi R\ dR$でこれを$R$を0から$r$まで動かして積分したらよいでしょう。よって、慣性モーメントの計算は
\begin{align*}\displaystyle \int_{0}^{r} \dfrac{M}{\pi r^{2}}R^{2}・2\pi R dR\\ =\dfrac{2\pi M}{\pi r^{2}}\displaystyle \int_{0}^{r}R^{3}dR\\ =\dfrac{1}{2}Mr^{2}\end{align*}
となります
方法2 ヤコビアンを用いる
積分するときに都合の良い文字に置き換えて積分することができました。これが置換積分なわけですが、今回は二次元の積分になるわけなので今までのような置換方法では足りないわけです。ヤコビアンというものを使います(ヤコビアンの記事を参考にしてください)。

今考えている座標変換として円への変換なので、$x=R\cos{\phi},y=R\sin{\phi}$という変換を考えましょう。
\begin{align*} \begin{vmatrix} \dfrac{\partial x}{\partial R} & \dfrac{\partial x}{\partial \phi} \\ \dfrac{\partial y}{\partial R} & \dfrac{\partial y}{\partial \phi} \end{vmatrix} &= \begin{vmatrix} \cos{\phi} & -R\sin{\phi} \\ \sin{\phi} & R\cos{\phi} \end{vmatrix}\\ &=R \end{align*}
となるので、$dx\ dy= R\ dR\ d\phi$となります。いま、$R,\phi$を動かして半径$r$の円内部全域をうごかそうとすると、$0\leq R \leq r, 0\leq \phi \leq 2\pi$となります。
\begin{align*} \iint_{\text{半径}r\text{の円の内部}}\dfrac{M}{\pi r^2}(x^2+y^2)dx dy&=\int_0^r R^2\ dR \int_0^{2\pi}d\phi\ \dfrac{M}{\pi r^2} \end{align*}
ここで、文字と積分範囲の対応をはっきりさせるために前にまとめました。ここで、先に$\phi$の積分を行います。被積分関数に$\phi$に依存する項はないので、
\begin{align*} =\int_0^r \dfrac{M}{\pi r^2}R^2\cdot 2\pi \end{align*}
となります。後の積分は先ほど紹介した計算方法と同様です。 次に二つ目の例です.

例題 一辺が2a,2bの一様な質量Mの長方形の板Aの中心を通り板に垂直な軸まわりの慣性モーメント

単位面積当たりの質量は
\begin{align*}\dfrac{M}{4ab}\end{align*}
です. 求める慣性モーメント$I$は
\begin{align*}I=\displaystyle \iint_{A}\dfrac{M}{4ab}\left(x^{2}+y^{2}\right)dxdy\end{align*}
ただし、$Aは-a\leq x\leq a, -b\leq y\leq b$の領域とします。いま、考えている中心軸は板の中心をとおっているのでその点を$xy$平面上の原点としましょう。 では、慣性モーメントを求める積分式を計算できるように書き換えましょう.
\begin{align*}\displaystyle \iint \dfrac{M}{4ab}(x^{2}+y^{2})dxdy=\int_{-a}^{a}\left\{\int_{-b}^{b}\dfrac{M}{4ab}(x^{2}+y^{2})dy\right\}dx\end{align*}
二変数の関数を積分なのですが今回のように$xy$の互いの定義域が独立している場合、どっちから積分してもいいです。 かっこの中について $y$で積分するときには$x$は定数とみて計算します.
\begin{align*} \displaystyle \int_{-b}^{b}\dfrac{M}{4ab} \left(x^{2}+y^{2}\right)dy &=\displaystyle \dfrac{M}{4ab}\int_{-b}^{b}(x^{2}+y^{2})dy\\ &=\dfrac{M}{4ab}\left[x^{2}y+\dfrac{1}{3}y^{3}\right]^{b}_{-b}\\ &=\dfrac{M}{4ab}(2bx^{2}+\dfrac{2}{3}b^{3})\\ &= \dfrac{M}{6ab}(3bx^{2}+b^{3}) \end{align*}
$y$で積分したのですから積分結果に$y$は残らないということに注意してください。 つまり、慣性モーメントの計算式は
\begin{align*}I=\displaystyle \int_{-a}^{a}\dfrac{M}{6ab}(3bx^{2}+b^{3})\end{align*}
残りの計算は簡単ですね.
\begin{align*}I=\dfrac{M}{3}(a^{2}+b^{2})\end{align*}
こんかいはふつうにやりましたが、奇関数偶関数の性質を使ってうまく計算してください. 直接の計算方法の紹介は以上です.



以下に慣性モーメントを直接計算しない方法も紹介します。 何が便利なのか?というと、求めにくいような慣性モーメントも違う軸の慣性モーメントから簡単に求まるということです.

薄板の直交軸定理とは?

直交軸定理
薄板の面上に直交座標$xy$をとって、$xy$平面に垂直に$z$軸を設定します。$z$軸方向について十分厚さが無視できるとき,
\begin{align*}I_{x}+I_{y}=I_{z}\end{align*}
が成り立ちます。たとえば$I_{x}$は$x$軸まわりの慣性モーメントです。

計算に便利な平行軸定理

平行軸定理
質量$M$の物体の重心から距離$r$はなれた軸まわりの慣性モーメントは,重心を通る軸まわりの慣性モーメント$I$ををつかって
\begin{align*}I+Mr^{2}\end{align*}
と表されます。

慣性モーメントの応用先

慣性モーメントは結構求めるのが大変なような気がしますが、なぜわざわざこんな量を求めるのでしょうか?それは回転に関する運動方程式が記述しやすくなるからです。次回の記事で解説します。



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