量子力学⑩ 時間発展演算子 このエントリーをはてなブックマークに追加

時間発展演算子の導出方法とは?

波動力学の分野にあるこの記事で実は時間についての方程式を無視していました。もう一度この話をしてみます。

シュレディンガー方程式から時間要素だけを取り出す

時間に依存するシュレディンガー方程式は1次元では
\begin{align*} i\hbar \dfrac{\partial \psi(x,t)}{\partial t}=\left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x)\right\}\psi(x,t) \end{align*}
と書けるのでした。これをこのままの形で解くのは難しいので、変数分離をしたのでした。たとえば、$\psi(x,t)=\varphi(x)T(t)$という形にすれば、
\begin{align*} i\hbar \varphi(x)\dfrac{\partial T(t)}{\partial t}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}T(t)\dfrac{\partial^2\varphi(x)}{\partial x^2}+V(x)\varphi(x)T(t) \end{align*}
という形になります。$\varphi(x)$は時間に対して定数なので時間微分の演算子はスルーしました。この辺々を$\varphi(x)T(t)$でわります。(微分項は割っても消えないことに注意してください)

この先もう変数分離をしているのでわざわざ偏微分と常微分を区別する必要がなくなります。というわけでやりやすいように常微分に変えてやります。
\begin{align*} i\hbar \dfrac{1}{T(t)}\dfrac{dT(t)}{dt}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{1}{\varphi(x)}\dfrac{d^2\varphi(x)}{dx^2}+V(x) \end{align*}
この右辺は$t$の、左辺は$x$の関数なので、この辺々が定数にならないと恒等的にこの式が成り立つということはないでしょう。よって、辺々を定数に等しいと置きますが、もう一度扱っているのでネタバレをしておきます。辺々は全エネルギー$E$に等しいとおけばよくて、
\begin{align*} \left\{-\dfrac{\hbar^2}{2m}\dfrac{d^2}{dx^2}+V(x)\right\}\varphi(x)&=E\varphi(x)\\ i\hbar\dfrac{dT(t)}{dt}&=ET(t) \end{align*}
という式が得られるわけです。一つ目の式に関しての解析はもう波動力学の記事でやりまくっているので、ここでは2つめの式を考えてみましょう。

常微分方程式で扱ったように丁寧に解くと、
\begin{align*} \dfrac{dT(t)}{T(t)}&=-i\dfrac{E}{\hbar}dt\\ \int \dfrac{dT(t)}{T(t)}&=-\int i\dfrac{E}{\hbar}dt\\ \log{T(t)}-\log{T(t_0)}&=-i\dfrac{E}{\hbar}(t-t_0)\\ T(t)&=T(t_0)\exp{\left\{-i\dfrac{E}{\hbar}(t-t_0)\right\}} \end{align*}
となります。

時間項の演算子化

さて、これを演算子化してみたいのですが、全エネルギーを演算子化すればよいわけです(これをハミルトニアン演算子$H$とします)。これを$U(t,t_0)$とおいて、
\begin{align*} U(t,t_0)=\exp{\left\{-i\dfrac{H}{\hbar}(t-t_0)\right\}} \end{align*}
というような演算子を時間発展演算子といいます。これは、
\begin{align*} T(t)=U(t,t_0)T(t_0) \end{align*}
というように$t_0\to t$の時間発展を記述します。ただここまでの議論には決定的な弱点があって、ハミルトニアンが時間変化しないというのが条件になります。

時間変化する場合の時間発展演算子とダイソン級数

ハミルトニアンが時間発展する場合には積分を簡単な一次関数で書くことができません。ハミルトニアンが時間発展する場合の時間発展演算子は、
\begin{align*} U(t,t_0)=\exp{\left(-\dfrac{i}{\hbar}\int_{t_0}^t H(t^\prime)dt^\prime\right)} \end{align*}
となります。しかもこれにもさらに弱点があって異なる時刻に対するハミルトニアンが交換する場合にのみこの式で書けることになります。

時間発展演算子のユニタリー性

実は時間発展演算子はユニタリー演算子です。導出からもわかるように時間発展演算子は波動関数の一部のように考えることができます。基準となる時刻$t=t_0$での状態を$\ket{\psi(t_0)}$とすると、時刻$t=t_0$での状態は、
\begin{align*} U(t,t_0)\ket{\psi(t_0)} \end{align*}
と書くことができるでしょう。ここで、時刻$t_0$と$t$での状態について内積を取りますが存在確率というのは保存するはずです。すなわち、
\begin{align*} \braket{\psi(t_0)|\psi(t_0)}=\braket{\psi(t)|\psi(t)} \end{align*}
となるはずですが、$\ket{\psi(t)}=U(t,t_0)\ket{\psi(t_0)}$であり、このブラは、
\begin{align*} \bra{\psi(t)}=\bra{\psi(t_0)}U^\dagger(t,t_0) \end{align*}
と書けるので、確率保存の式は、
\begin{align*} \braket{\psi(t_0)|\psi(t_0)}=\bra{\psi(t_0)}U^\dagger(t,t_0)U(t,t_0)\ket{\psi(t_0)} \end{align*}
見やすいように引数を省略してみると、
\begin{align*} \braket{\psi|\psi}=\bra{\psi}U^\dagger U\ket{\psi} \end{align*}
つまり、$U^\dagger U=\hat{1}$という恒等写像になっていなければおかしいわけです。というわけで、時間発展演算子はユニタリーだということがわかりました。



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