電磁気学⑦ 磁気モーメント・磁性体・磁化電流 このエントリーをはてなブックマークに追加

磁気双極子と磁性体、磁化と磁化電流

この記事では磁気の話をするわけですが...マクスウェル方程式はそれなりに磁場と電場に対して対称的です。ちなみに非対称にしているのは
\begin{align} \nabla\cdot\boldsymbol{B}=0 \label{eq-em7:1} \end{align}
という式でこれは単磁荷の存在を否定しています。実際磁荷をもつ素粒子は発見されていません。電場は電荷をもとにしていることを考えれば確かに非対称ですかね。

また、磁束が急に湧き出したり収束したりすることはないということがわかります。つまり,磁束線は閉曲線をなすということがわかります。



ローレンツ力の式と電流素片にはたらく力

電流素片にはたらく力
磁束密度$\boldsymbol{B}$中の電流$I$が流れる長さ$d\boldsymbol{l}$の導線にはたらく力は
\begin{align} \boldsymbol{F}=I\ d\boldsymbol{l}\times \boldsymbol{B} \label{eq-em7:2} \end{align}
\begin{align*} \boldsymbol{F}=q(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}) \end{align*}
このままでは少しやりにくいので$\boldsymbol{E}=\boldsymbol{0}$としてみます。また微小な電荷$dq$にはたらく微小な力を扱うことにしましょう。つまり,
\begin{align*} d\boldsymbol{F}=dq\ \boldsymbol{v}\times \boldsymbol{B} \end{align*}
ということです。これをさらに変形すると,
\begin{align*} d\boldsymbol{F}=\dfrac{dq}{dt}(\boldsymbol{v}dt)\times \boldsymbol{B} \end{align*}
ここで$I=\dfrac{dq}{dt}$を用います。あと,$\boldsymbol{v}dt$は微小な項で,長さの次元(電流が流れている領域を表す)なので,$d\boldsymbol{l}=\boldsymbol{v}dt$として,
\begin{align} d\boldsymbol{F}=Id\boldsymbol{l}\times \boldsymbol{B} \tag{\ref{eq-em7:2}} \end{align}

磁気モーメントの定義

磁気モーメント
\begin{align} \boldsymbol{m}\stackrel{def}{=}I\boldsymbol{S} \label{eq-em7:3} \end{align}
ただし、$\boldsymbol{S}$というのは大きさはループ電流$I$が囲む面積で、方向はその面に垂直な方向を向いたベクトルです。
今考えている$\boldsymbol{E}$-$\boldsymbol{B}$対応では、単磁荷の存在が否定されていて、磁場を発生させるのは磁荷ではなく電流です。よって、電流を用いて定義します。

磁化(磁気分極)と磁性体の話

磁化(磁気分極)
以下のようにも定義されます。
\begin{align} \boldsymbol{M}\stackrel{def}{=}\dfrac{1}{\mu_0}\boldsymbol{B}-\boldsymbol{H} \label{eq-em7:4} \end{align}
微視的には単位体積当たりの磁気モーメントのことをいいます。つまり以下のような定義もあります。
\begin{align*} \boldsymbol{M}=\dfrac{1}{V}\sum \boldsymbol{m} \end{align*}
また、磁場がそれほど大きくないときには磁化は磁場に比例するので、磁気感受率を以下のように定義します。
磁気感受率
以下を満たす$\chi_m$を磁気感受率という
\begin{align} \boldsymbol{M}=\chi_m\boldsymbol{H} \label{eq-em7:5} \end{align}

磁気分極と電気分極、磁気感受率と電気感受率

磁気分極と電気分極はすごく似たように思えますが定義のされ方が大きく違います。$E$-$B$対応では単磁荷の存在が否定されていて、磁気双極子モーメントが定義できないので、同じように定義ができないのです。

磁気分極と電気分極のちがい
電気分極...単位体積当たりの電気双極子モーメント
磁気分極...単位体積当たりの磁気モーメント
また、感受率についての以下のような違いが出ます。
\begin{align*} \boldsymbol{P}&=\varepsilon_0\chi_e \boldsymbol{E} \\ \boldsymbol{M}&=\chi_m \boldsymbol{H}\\ \end{align*}
個人的な考え方ですが、感受率は無次元量なので、分極は補助場である$\boldsymbol{D}$や$\boldsymbol{H}$と同じ次元を持つと考えればよいと思います。

磁性の種類まとめ

$\chi_m \lt 0$となる物質を反磁性体といいます。

ところで,原子のまわりには電子がまわっているわけで,これは微小電流としてみなせるのではないでしょうか。つまり,磁性体中には多くの磁気モーメントがあるわけです。

磁気モーメントどうしに相互作用がなければ,向きが完全にランダムだと考え,外部磁場が存在しない段階では全体の分極は打ち消しあって0と考えることができます。

次に磁場を加えたときを考えます。このような状況ではを常磁性体といいます。

これに対して,互いの相互作用によりあらかじめ自発磁化が一様な磁性体も存在します。これを強磁性体といいます。この磁性体には磁気ヒステリシスといって磁場の変化を記録する性質をもつものもあります。



磁場によるポテンシャルエネルギー

磁場にポテンシャルエネルギーは
\begin{align*} U=-\boldsymbol{m}\cdot \boldsymbol{B} \end{align*}
となります。この式は電気分極に関する場合
\begin{align*} U=-\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{E} \end{align*}
と同じような式になります。また、トルクに関しても
\begin{align*} \boldsymbol{N}&=\boldsymbol{p}\times\boldsymbol{E}\\ \boldsymbol{N}&=\boldsymbol{m}\times \boldsymbol{B} \end{align*}
というように似た形になります。

磁気分極と磁場、磁束密度の関係と透磁率

磁場と磁束密度、磁気分極には以下のような関係がありました。
\begin{align} \boldsymbol{M}=\dfrac{1}{\mu_0}\boldsymbol{B}-\boldsymbol{H} \tag{\ref{eq-em7:4}} \end{align}
さて、この式を変形すると、
\begin{align*} \boldsymbol{B} &=\mu_0 \boldsymbol{H}+\mu_0 \boldsymbol{M} \\ &=\mu_0(\boldsymbol{H}+\boldsymbol{M}) \end{align*}
となります。ここで、\eqref{eq-em7:5}より、
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\mu_0(1+\chi_m)\boldsymbol{H} \end{align*}
となります。よって、以下のように透磁率を定義します。
透磁率
\begin{align*} \mu=(1+\chi_m)\mu_0 \end{align*}

磁場と磁束密度の境界条件

基本的には電場のときとおなじです。
磁場と磁束密度の境界条件
磁場$\boldsymbol{H}$の境界と平行な成分と、磁束密度$\boldsymbol{B}$の境界と垂直な成分はふたつの領域で等しくなる。ただし、磁場$\boldsymbol{H}$が等しくなるのは境界上に電流が流れていない場合に限る。
このことはマクスウェル方程式をもとにしています。\eqref{eq-em7:1}と以下の式
\begin{align*} \nabla\times \boldsymbol{H}=\boldsymbol{j}+\dfrac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t} \end{align*}
に由来しています。ゆえに電流が流れていれば成り立たないことがわかると思います。

磁化電流の定義とその意味

先ほどから説明しているように磁場の発生源は「磁荷」ではなく,「電流」とみなしたほうがよさそうです。マクスウェル方程式から,
\begin{align*} \nabla\times \boldsymbol{H}&=\boldsymbol{j}+\dfrac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \end{align*}
が成り立ちますが、ところで,\eqref{eq-em7:4}を用いると,磁性体中の$\boldsymbol{H}$を含む式が得られるでしょう。
\begin{align*} \nabla\times\left(\boldsymbol{B}-\mu_0\boldsymbol{M}\right)=\mu_0\boldsymbol{j}+\mu_0\dfrac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \end{align*}
これを以下のように変形します。
\begin{align} \nabla\times\boldsymbol{B}=\mu_0\left(\boldsymbol{j}+\nabla\times\boldsymbol{M}\right)+\mu_0\dfrac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \label{eq-em7:6} \end{align}
これを真空中のマクスウェル方程式と比べてみましょう。
\begin{align*} \nabla\times\boldsymbol{B}=\mu_0\boldsymbol{j}+\mu_0\dfrac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \end{align*}
つまり,\eqref{eq-em7:6}の括弧内第二項が電流密度に実質、値しそうですね。
磁化電流密度
\begin{align*} \boldsymbol{j_M}\stackrel{def}{=}\nabla\times\boldsymbol{M} \end{align*}
つまり,誘導磁場を生じさせるためにこの分の電流密度が流れていると考えることができます。何度も言いますが,磁化は$\mu_0$をかけて定義されている場合もあるので,式がこの分だけ変わることはよくあります。そこには注意してください。



もしE-H対応だったら...磁気双極子モーメント

単磁荷が存在すると仮定して、もしくは磁荷対が存在すると仮定して、磁気双極子モーメントを計算してみましょう。ちなみに、円電流から作られる磁場は単磁荷を仮定しなくても成り立ちます。

円電流が遠方に作る磁束密度を計算する

ビオ・サバールの法則を用いてこの円電流がつくる磁場を計算してみましょう。ループ電流の微小素片によってつくられる磁場はBiot-Savartの法則で計算できます。
\begin{align} d\boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I\ d\boldsymbol{s}\times (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)}{4\pi|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime|^3} \label{eq-em7:7} \end{align}
これを積分すれば求めたい磁場が出てきそうですね。このループ電流は$z=0$の平面にあるとして,$x^\prime= \rho\cos{\phi},y^\prime= \rho\sin{\phi}$として線積分をしましょう。微小素は、
\begin{align*} d\boldsymbol{s}&=\dfrac{d\boldsymbol{s}}{d\phi}d\phi\nonumber \\ &=\begin{pmatrix} - \rho\sin{\phi}\\ \rho\cos{\phi} \\ 0\end{pmatrix}d\phi \end{align*}
これを用いて\eqref{eq-em7:7}を積分すると,
\begin{align*} \boldsymbol{B}&=\int_{0}^{2\pi} \dfrac{\mu I}{4\pi\left\{(x- \rho\cos{\phi})^2+(y- \rho\sin{\phi})^2+z^2\right\}^\frac{3}{2}}\begin{pmatrix}- \rho\sin{\phi} \\ \rho\cos{\phi}\\ 0\end{pmatrix}\times \begin{pmatrix}x- \rho\cos{\phi} \\ y- \rho\sin{\phi}\\ z\end{pmatrix} d\phi\\ &=\int_0^{2\pi} \dfrac{\mu I}{4\pi \left\{(x-\rho \cos{\phi})^2+(y-\rho \sin{\phi})^2+z^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\begin{pmatrix} z \rho\cos{\phi}\\ z \rho\sin{\phi}\\ \rho^2-y \rho\sin{\phi}-x \rho\cos{\phi}d\phi \end{pmatrix} \end{align*}
この計算は分母が複雑で難しいですね。そこで分母に関して$|\boldsymbol{r}|$$\gg$$ \rho$として,テイラー展開で近似とか考えずにそのまま無視します。つまり,
\begin{align*} \boldsymbol{B}&=\int_0^{2\pi} \dfrac{\mu I}{4\pi \left(x^2+y^2+z^2\right)^{\frac{3}{2}}} \begin{pmatrix}z \rho\cos{\phi} \\ z \rho\sin{\phi} \\ \rho^2-y \rho\sin{\phi}-x \rho\cos{\phi} \end{pmatrix} d\phi\\ &=\dfrac{\mu I}{4\pi(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}}\begin{pmatrix}0 \\ 0 \\ 2\pi \rho^2\end{pmatrix}\\ &=\dfrac{\mu I(\pi \rho^2)\boldsymbol{e_z}}{2\pi(x^2+y^2+z^2)^{\frac{3}{2}}} \end{align*}
ここで,$\pi \rho^2$は円電流の囲む面積なので,これを$S$とおいて,
\begin{align} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I S\boldsymbol{e_z}}{2\pi|\boldsymbol{r}|^3} \label{eq-em7:8} \end{align}
さて,これで円電流による磁場が求まったわけですが,実はこれが磁気双極子と等価なのです。

磁荷に関するクーロンの法則から磁気双極子を考える

磁荷に関するクーロンの法則
\begin{align*} \boldsymbol{F}=\dfrac{m_1m_2(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)}{4\pi\mu|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime|^3} \end{align*}
ただし、 これは電荷に関するクーロンの法則
\begin{align*} \boldsymbol{F}=\dfrac{q_1q_2(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)}{4\pi\varepsilon|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime|^3} \end{align*}
で,電荷を磁荷に,誘電率を透磁率に変えただけですね。というわけで磁気双極子というのは電気双極子とほぼ同じです。よって磁気双極子による磁場は,$\boldsymbol{B}=\mu \boldsymbol{H}$より、電気双極子の記事の計算を利用して、
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{3\boldsymbol{p_m}\cdot\boldsymbol{r}}{4\pi|\boldsymbol{r}|^5}\boldsymbol{r}-\dfrac{\boldsymbol{p_m}}{4\pi |\boldsymbol{r}|^3} \end{align*}
ここで,磁気双極子と平行な方向に座標ベクトルを取って,$\boldsymbol{p_m}\cdot\boldsymbol{r}=|\boldsymbol{p_m}||\boldsymbol{r}|$となりますが,この状況では,
\begin{align*} |\boldsymbol{p_m}||\boldsymbol{r}|\boldsymbol{r}=|\boldsymbol{r}|^2\boldsymbol{p_m} \end{align*}
とできるので,
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\boldsymbol{p_m}}{2\pi|\boldsymbol{r}|^3} \end{align*}
この式を\eqref{eq-em7:8}と比較すれば,
\begin{align*} \boldsymbol{p_m}=\mu I\boldsymbol{S} \end{align*}
とできるでしょう。ここで$\boldsymbol{S}$は面に垂直な方向にとります。 逆に、$E$-$H$対応では磁化が磁気双極子モーメントから定義されることもあり、その場合には今回定義している磁気モーメントに$\mu_0$をかけた式が磁気モーメントになります。



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