電磁気学⑧ インダクタンスとコイル・ソレノイドがつくる磁場 このエントリーをはてなブックマークに追加

コイルのインダクタンスとは?





コイル・ソレノイドが発生させる磁場を計算する

Biot-Savartの法則を用いてコイルの電流密度を計算します。以前一度導出しましたが、今回は円筒座標を用いて手っ取り早く導出したいと思います。

有限の長さの直線電流がつくる磁場

3次元空間を考えます。$z$軸上$z_1~z_2$を電流$I$が流れているものとしましょう。ここで,座標を$x=\rho\cos{\phi},y=\rho\sin{\phi}$として,計算しましょう。ここで,$z~z+dz$の電流が点$(x,y,0)$につくる磁場を計算します。

ビオサバールの法則は以下のような式で表されました。細かい文字や記号の意味はBiot-Savartの法則の解説記事をご覧ください。
\begin{align*} d\boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I\ ds\times (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)}{4\pi|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime|^3} \end{align*}
$ds$というのは電流が流れている素片です。ところで,$(x,y)$平面内半径方向の単位ベクトルを$\boldsymbol{e_\rho}$として
\begin{align*} \boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime&=\rho\boldsymbol{e_\rho}-z\boldsymbol{e_z}\\ |\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime|&=\sqrt{x^2+y^2+z^2}\nonumber \\ &=\sqrt{\rho^2+z^2}\\ d\boldsymbol{s}&=dz\boldsymbol{e_z} \\ d\boldsymbol{s}\times(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)&=\rho(dz)\boldsymbol{e_z\times e_\rho}\nonumber \\ &=\rho\boldsymbol{e_\phi}dz \end{align*}
よって,$x$成分は,
\begin{align*} d\boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I\rho\boldsymbol{e_\phi}}{4\pi(\rho^2+z^2)^\frac{3}{2}}dz \end{align*}
よって,求めたい磁場は,
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I \rho}{4\pi}\left(\int_{z_1}^{z_2}\dfrac{1}{(\rho^2+z^2)^\frac{3}{2}}dz\right)\boldsymbol{e_\phi} \end{align*}
となりますが...この積分はそのままは解けなさそうなので,$z=\rho\tan{\phi}$として置換積分すればよいでしょう。というわけでこの詳細な積分計算は略しますが。
\begin{align} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I}{4\pi \rho}(\sin{\phi_2}-\sin{\phi_1}) \label{eq-em8:1} \end{align}

無限に長い直線電流による磁場

\eqref{eq-em8:1}を利用します。この式は$z=\rho\tan{\phi}$と置いていたので,積分をマイナス無限大から無限大にするには$\phi_1=-\dfrac{\pi}{2},\phi_2=\dfrac{\pi}{2}$とすればよいでしょう。
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I}{2\pi \rho} \end{align*}
となります。

円電流のつくる磁場

半径$\rho$で$xy$平面上の円電流を考えます。この円電流が原点につくる磁場を考えましょう。

また,ビオ・サバールの法則によれば,$(\rho,\phi)$の電流素片が原点につくる磁場は,
\begin{align*} d\boldsymbol{B}&=\dfrac{\mu I(\rho\ d\phi \boldsymbol{a_\phi})\times(-\rho\boldsymbol{a_\rho})}{4\pi \rho^3}\nonumber \\ &=\dfrac{\mu I \boldsymbol{a_z}}{4\pi \rho}d\phi \end{align*}
これが微小磁場なのでこれを一周積分すれば求めたい磁場が求まります。
\begin{align} \boldsymbol{B}&=\left(\int_0^{2\pi} \dfrac{\mu I}{4\pi \rho}d\phi\right)\boldsymbol{a_z}\nonumber \\ &=\dfrac{\mu I}{2\rho}\boldsymbol{a_z} \label{eq-em8:2} \end{align}
これは意外と簡単でしたね。

ソレノイドのつくる磁場

ソレノイドのつくる磁場はビオ・サバールの法則よりもアンペアの法則を使うほうが便利です。アンペアの法則とは,マクスウェル方程式の中では,
\begin{align*} \nabla\times\boldsymbol{H}=\boldsymbol{j}+\dfrac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \end{align*}
の式を利用します。ここで静電場を仮定して右辺第二項を0と考えて,辺々面積分します。右辺第一項は面積分により電流になり,右辺はストークスの定理より面を囲む閉曲線による線積分になります。よって,
\begin{align} I=\oint_C\boldsymbol{H}\cdot d\boldsymbol{r} \label{eq-em8:3} \end{align}
この積分経路として,ソレノイドを貫いて外部を通って一周する状況を考えます。ここで,重要な情報があります。



磁束線の密度を考える。

磁場の線積分なので磁束線がどんな感じか考えてみましょう。 前回述べた磁場の性質として,
\begin{align*} \nabla\cdot\boldsymbol{B}=0 \end{align*}
より磁束線は終端しないのでした。つまり,無限遠に飛ぶか,閉曲線を描くのでした。 ソレノイド内部(断面積を$S$とします。有限値です。)では密ですが,外部(断面積は無限大です。)ではソレノイド内部に比べて無視できるほど磁束線がありません。実際磁束は保存するので,
\begin{align*} B_{内}S=B_{外}\times \infty \end{align*}
で外の磁場は無視できるでしょう。よって\eqref{eq-em8:3}の右辺の線積分はソレノイド内部部分の経路だけ聞いてくることになります。ちなみにこの経路に囲まれた領域には$N$回巻のソレノイドなら貫く電流は$NI$なので右辺は$NI$になります。ソレノイド内部での磁場の大きさが一定で$H$と考えれば,ソレノイドの長さを$l$として,
\begin{align*} NI=Hl \end{align*}
となります。つまり発生する磁場は,単位長さあたりの巻き数を$n$として,
\begin{align} H=\dfrac{N}{l}I=nI \label{eq-em8:4} \end{align}
となります。これがソレノイドによる磁場ですね。ちなみに向きはソレノイドに沿った向きになります。

インダクタンスの定義

インダクタンス
インダクタンスとはコイルを貫く磁束を$\Phi$,コイルに流れる電流を$I$として
\begin{align*} L\stackrel{def}{=}\dfrac{\Phi}{I} \end{align*}
と表せます。ただし,磁束は,磁束密度$\boldsymbol{B}$に対して,
\begin{align*} \Phi=\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{S} \end{align*}
という関係があります。
さて、直線電流では$S$が定義できないのでインダクタンスが定義できないのですが,円電流とソレノイドでは考えてもよさそうです。

円電流のインダクタンス

円電流コイルのインダクタンスを考えます。円電流コイルに発生する磁場は,円の面に垂直な向きに
\begin{align} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I }{2\rho}\boldsymbol{a_z} \tag{\ref{eq-em8:2}} \end{align}
で,断面積というのは$z$軸に垂直な面積$\pi \rho^2$でした。この磁束密度と断面から,貫く磁束は,
\begin{align*} \Phi=\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{S}=\dfrac{\pi\mu \rho}{2}I \end{align*}
となるので,$\Phi=LI$より,
\begin{align*} L=\dfrac{\pi \mu \rho}{2} \end{align*}
と求められます。

ソレノイドのインダクタンス

ソレノイドの断面積を$S$とします。ソレノイド内部に発生する磁場は,ソレノイド断面に垂直な向きに,
\begin{align} H=\dfrac{N}{l}I=nI \tag{\ref{eq-em8:4}} \end{align}
となるのでした。つまり貫く磁束は,
\begin{align*} \Phi= \dfrac{\mu N S}{l}I=\mu n S I \end{align*}
となります。つまり,インダクタンスは,
\begin{align*} L=\dfrac{\mu N S}{l}=\mu n S \end{align*}
とできるでしょう。



インダクタンスと電圧の関係

インダクタンスと電圧の関係
\begin{align*} V=-L\dfrac{dI}{dt} \end{align*}
\begin{align*} \Phi=LI \end{align*}
という関係がありました。この辺々を時間微分してやりましょう。
\begin{align*} \dfrac{d\Phi}{dt}=L\dfrac{dI}{dt} \end{align*}
ところで,この左辺に,ファラデーの法則
\begin{align*} V=-\dfrac{d\Phi}{dt} \end{align*}
を利用します。(これもマクスウェル方程式のひとつ$\nabla\times\boldsymbol{E}=-\dfrac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}$の辺々を面積分して,左辺をストークスの定理で線積分に変更すれば出てきます。)この式を用いて磁束$\Phi$を消去してやると,
\begin{align*} V=-L\dfrac{dI}{dt} \end{align*}
という式が出てきました。このマイナスの意味が気になるところですね....

コイル(インダクタ)の電圧の負号の意味合い

皆さんご存じかと思いますが,コイルは外部からくわえられる磁場変化を起こす電流変化にさからおうとする電圧を得ます。(ファラデーの電磁誘導の法則のことです)

という意味を込めて電圧に負号がついているのですが,もちろんですが電圧の正負をどうとるかで向きが変わります...

電気回路では基本的に電圧と電流を逆向きに取っているので,マイナスはつきません...


使う場面や分野によって少し注意する必要がありそうです。

電荷によって発生する有効磁場

有効磁場
速度$\boldsymbol{v}$で運動する電荷とその電荷から発生する電場$\boldsymbol{E}$について、発生する磁場は、
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\boldsymbol{v}}{c^2}\times \boldsymbol{E} \end{align*}
電流というのは元をたどれば電荷が構成しているはずです。そこで,電荷の存在にまで立ち上って考えてみましょう。一旦ビオ・サヴァールの法則を書いてみます。
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu I d\boldsymbol{s}\times (\boldsymbol{r-r^\prime})}{4\pi|\boldsymbol{r-r^\prime}|^3} \end{align*}
この電流を電荷を用いて表せないでしょうか。電流というのは単位時間あたりに流れる電荷なので,位置$\boldsymbol{r^\prime}$にある電流の構成要素が電荷$q$の粒子1つだとします。微小時間$d t$の間に流れる電荷は$q$が一回通り過ぎるだけなので,$q$でよいでしょう。
\begin{align*} \boldsymbol{B}&=\dfrac{\mu \frac{dq}{d t}d\boldsymbol{s}\times (\boldsymbol{r-r^\prime})}{4\pi|\boldsymbol{r-r^\prime}|^3} \nonumber\\ &=\dfrac{\mu q\frac{d\boldsymbol{s}}{dt}\times (\boldsymbol{r-r^\prime})}{4\pi|\boldsymbol{r-r^\prime|^3}} \end{align*}
この$\dfrac{d\boldsymbol{s}}{dt}$は速度と捉えても良いでしょう。
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\mu q\boldsymbol{v}\times(\boldsymbol{r-r^\prime})}{4\pi|\boldsymbol{r-r^\prime|^3}} \end{align*}
あえて,ここで分母分子に誘電率を用意して,以下のように変形します。
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\mu\varepsilon \boldsymbol{v}\times\dfrac{q(\boldsymbol{r-r^\prime})}{4\pi\varepsilon|\boldsymbol{r-r^\prime|^3}} \end{align*}
さて,この後ろ部分は電荷$q$による電場です。なのでこれを$\boldsymbol{E}$とおきます。また,誘電率,透磁率,光速度の関係は,
\begin{align*} c=\dfrac{1}{\sqrt{\mu\varepsilon}} \end{align*}
なので,まとめると,
\begin{align*} \boldsymbol{B}=\dfrac{\boldsymbol{v}}{c^2}\times \boldsymbol{E} \end{align*}
このように運動する電荷から発生する磁場を有効磁場といいます。



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